午前三時の音楽

ライブの感想などを書いています

サニーデイ・サービス TOUR 2023@3/11 大阪サンケイホールブリーゼ

サニーデイの音源を順を追って本格的に聴き始めたのは解散の後からで、当然ながらライブを見たのは再結成の後。
メンバー三人だけがステージに立ち、アイコンタクト以外のやり取りはほぼなし。
新譜を出してもなお「ふたつのハート」以外の新曲はほぼやらず、再結成前のベストな選曲を繰り広げる姿はたしかに目の前にいるはずなのに、ここではないうんと遠い場所で繰り広げられている16ミリフィフルムの懐かしい映画のリバイバル上映を観ているようだった。
さながら、「夏は行ってしまった」に切り取られた光景そのままで、かつての若者たちは皆大人になって、いまこうしてふたたびここに集まったのだというある種の残酷さと優しさを持ち寄りあいながらバンドの現在地を示しているように見えた。

最後にサニーデイ・サービスを見たのは2015年12月の新大阪メルパルクホールで、その時は当然知るよしもなかったけれど、オリジナルメンバー三人でのステージを観ることのできた最後のチャンスだった。
そこからしばらくの間、ただなんとなくとしか言えないままサニーデイや曽我部さんの音楽から離れてしまっていた(ついでと言ってはなんだけれど、コロナ禍に突入してから去年の冬までの間、ほとんどのライブに行くことを自粛していたらびっくりするほど音楽を聴く気力を失ってしまっていた)わたしが8年ぶりにライブに行きたいと思うきっかけになったのは、16年ぶりのエッセイ「いい匂いのする方へ」を読んだことから。
いまのこの人の、バンドの鳴らしている音楽を聴きたい。
すぐさまサブスクで直近のアルバムを聴いたところ、あまりに瑞々しくて力強い音に『生まれ変わった』サニーデイがいることにびっくりしてそのまますぐにアルバムをネットショップで注文し、ライブのチケットを抑えることに。


満を持して迎えた3月12日は、一週間前にはコートが必要だったことを思うとびっくりするほどの穏やかな春の陽気に包まれたサニーデイ・サービス日和。
本日は晴天なり、という言葉がこれだけ相応しい日にサニーデイのライブが見られることがただうれしい。
シンプルな幕が下がったステージに、定刻少しすぎにメンバーが登場。しょっぱなのオープニングナンバーは「海辺のレストラン」
わたしは初見だった大工原さんのプレーはとにかく音が大きい! ビートの力強さと突き抜け感が半端ない! そこにとめどない熱さで応える田中さんと曽我部さんのプレーの力強さ、柔らかく穏やかで、どこまでもまっすぐなきらめきを乗せて届けられる歌の力が半端ない。
サニーデイは本当に強力なエンジンを積んで新しい場所に向かっているんだなぁ。
このところようやくライブに行き始めたタイミングだったとはいえ、これだけ素晴らしい転機を迎えたバンドに絶好のタイミングでこうして再会できて本当によかったな、と期待は高まるばかり。
自身が最後に見たころの良い意味での緊迫感が程よく溶けて、曽我部さんがにこやかに優しく笑いかけるように音楽を鳴らしてくれているのが遠くからでもひしひしと感じられるのがなんだかとても嬉しい。
のんびりと取ったチケットは一階席後方の端っこと、決していい条件とは言えないながらもステージ全体が、そしてびっしり埋め尽くされた満員のお客さんが見渡せる位置で、みながそれぞれにバラバラな思いを持ち寄るようにしてここに集まり、このバンドが鳴らしてくれる音楽に身も心も委ねて楽しんでいることが伝わってきてなんだかとても嬉しい。
(最前列の端にいた、ものすごく力強く音楽に夢中になっている男の子の姿がなんだかすごく素敵でジーンとしてしまった。曽我部さんのエッセイにあった、ブルーハーツのライブに行った日の曽我部少年のエピソードが重なって見えるようで)
再結成前の往年のファンが楽しみにしていたであろう名曲たちから直近のアルバムの曲まで、すべてが、かつて感じたある種の残酷で優しいノスタルジーを掻き消すような現在進行形の瑞々しさで鳴らされるのだから見ていてたまらない。
一曲終わるごとに優しい笑顔と口ぶりで曽我部さんが告げてくれる「ありがとう」と、何度も繰り返されたメンバー紹介にも、いまこの三人でバンドをやる喜びが溢れているよう。

以前はほとんどなかったMCは、メンバー間のやり取りもたっぷり。
(以下、覚書のため、正確なニュアンスなどは各自脳内補完してください。順番はバラバラです)


曽我部さん「メンバー紹介します。ベース、田中貴! ドラムス、大工原幹雄! そしてそして!」
田中さん「ボーカル・ギター、曽我部恵一!」
曽我部さん「そしてそしてって言ったら『ボーカル・ギター、曽我部恵一』って言ってねって楽屋で何度も言ってたんだよね」

うん、微笑ましい。笑


(出身地の紹介が入り)
曽我部さん「ベース田中貴! 愛媛県松江市出身ーーじゃなかった間違えた、今治市! いいところだよね、愛媛」

わたしも好きな街です、またライブで行けるといいのにな。

曽我部さん「オンドラムス、大工原幹雄! 神奈川県横須賀市出身!」

四国出身のお二人に比べると都会っ子だよね。横須賀はスカジャンの発祥の地。(ヤンキーの街?)スラムダンクの舞台だよね? それは鎌倉じゃない? などなどツッコミが入るのも和やかですね。

曽我部さん「そしてそして!」
田中さん「ボーカルギター、曽我部恵一!」
曽我部さん香川県坂出市出身! 僕、坂出の観光大使になったんですよ。って言っても特にまだ何もしてないんですけど」

就任は2022年で、今度香川のイベントに出られるんですよね。

曽我部さん「すごく大きな紙袋をもらって……お菓子の下にお金が隠してあったりするあれかなって思ったら全部名刺だったんだよね。笑」

期待されてるなぁ!笑

曽我部さん「すごく長い商店街があったんだけど、アーケードも老朽化して、お店もほとんどシャッターが降りちゃってて」

地方都市の現実ですよね、うむ。


(「NOW」の後に)
曽我部さん「この曲は30年くらい前にイギリスに行った時、向こうには新幹線なんかがないからずっと鈍行列車で田舎を走っていて、窓の向こうにピンクフロイドのジャケットみたいな光景が広がっていてできた曲です」

この日にセレクトされた再結成前の楽曲たちのテンションがどれも、ひりついた青春を懐かしむような空気ではなく、ごくごく自然な温度感で直近の作品ともシームレスに鳴らされていたのがほんとうによかった。
NOWがまさか聴けるとは、という驚きもあったなぁ。


(「幻の光」の後)
曽我部さん「煙(舞台演出のスモーク)がすごいことになってるけどこれは大丈夫なの? 幻の光に合わせて? この曲のPVは30年前の田中さんのあの名曲『星空のドライブ』の時から撮ってくれてる監督にお世話になって」

田中さん、いじられてちょっと困惑してました。笑

曽我部さん「真冬のすごく寒い海で夜更けから明け方までかかって撮影をして、僕たちよりも長時間撮影スタッフと主演の女の子は寒い中で頑張ってくれて。すごく可愛い、素敵な女の子が出てくれて」

この素敵な女の子って言い方がすごく曽我部さんだ〜って感じできゅんとしました。

www.youtube.com


ドキュメンタリー映画について)
曽我部さん「最初は(大工原さんが正式に加入した2020年春からの)ツアーに密着したライブ映画を撮る予定だったんだけど、コロナでツアーが全部飛んじゃってどうしようってなって。自分が出てるから恥ずかしい気持ちがあったけど、観てみたら案外ふつうに観られて。2時間半もあってすごく長いからあんまり一日何度も流れないと思うんだけど、京都は大好きなみなみ会館、大阪ではシネマート心斎橋で上映が決まっているので見てもらえると嬉しいです。
監督は普通にライブを見に遊びに来てくれたはずなんだけど……なぜかきょうもカメラ回してる。笑」

どこかで観られる日が来るのかな? 楽しみだね。
楽しみな次の話題は映画以外にも。


曽我部さん「今日発表になったんですが、神戸と鳥取で追加公演があります。神戸は大好きなライブハウスVARIT、米子はAZTiC laughs、ここは……知らないけど(笑)新しく出来たのかな? びっしり満員でやります」


ツアーの延期にイベントの中止、あらゆる規制、とさまざまなことを乗り越えた先でこうしてびっしり埋まったホールでライブを行えることにはさぞかし感慨深いものがあるんだろうなぁ。
スロウライダーの前には「次の曲は歌ってほしいんだけどーーもういいんだっけ? 控えめに歌って」との呼びかけもあったり。


(エッセイ集について)
曽我部さん「16年ぶりのエッセイ集、『いい匂いのする方へ』が出ました。みなさん読んでくれましたか? 今日の物販ではサイン入りで売ってます」
(拍手が起こる)
曽我部さん「田中なんてその間にもう5冊くらいラーメンの本が出てるのに。笑」

ラーメン評論家としてバラエティに出てたもんなぁ。笑

曽我部さん「ラーメン狂想曲のタイトル、僕が書いたんですよ。青春狂想曲と同じような字体でってリクエストされて。きょうは売ってないんだよね」
田中さん「大阪では前にも売ったからいいかなあって」

遠慮しやんでいいのに。笑

曽我部さん「時間もかかるし再録でいいよねって言ってたら編集さんにうまいこと言われて書き下ろしになっちゃって。みなさん知ってると思うけど僕、お店を始めたでしょ?(カレーの店8月)そのことや家族のことを書いてほしいって言われて。昔から作家がお茶の水山の上ホテルに篭って執筆する、みたいなのをやりたくて缶詰ってできますかって聞かれたら缶詰ってなんですか? って言われちゃって。笑
ホテルは無理ですって言われて会議室で朝から晩まで書きました。お昼には下の小窓がガチャって開いて食事が差し入れられてーーってそれは冗談ですよ。(笑)美味しいご飯が出て」

物販ではダイクさんの20年ほど前のバンドの音源も並んでいたのだとか。
高校時代! サニーデイも大学時代にデビューしていたとはいえ、早熟だなぁ。


季節が巡ってきたからなのか、中盤に差し掛かる頃には名古屋では演奏されなかったという桜super loveが披露。この曲の中で歌われる「君」は晴茂くんのことなんだよな、と思うと、こんなにやわらかくてきらきらした多幸感に包まれているのにどこか切ない。
この寂しさや悲しみをあたたかく包み込んでくれるところがサニーデイの世界なんだよなぁ。


曽我部さん「桜super loveを歌ったら晴茂くんのことを思い出したから晴茂くんの話をしたいんだけど――cinra の企画で亡くなった人の思い出を語るインタビューの企画があって、晴茂くんの話をしたのが昨日アップされました。見てくれましたか?」
(拍手が起こる)
曽我部さん「編集の若い女の子から企画の話を受けて――彼女も大切な人を亡くして、それを乗り越えて生きていて、そういったことの話をしてほしいという企画でした。インタビューをしてくれたのはずっとお世話になっている北沢夏音さんで、すごく素敵な映像に仕上げをてくれました」

ふたたび三人のバンドになったこと、それでも晴茂くんへの思いがいまもずっとあって、晴茂くんとともに生きているのだということ。
すごく優しいまっすぐな気持ちが語られていて、ライブの前日に見られたのはとても幸福なことだなぁと思えてとても良かった。

www.cinra.net


(最新作「DOKI DOKI」について)
曽我部さん「前作の『いいね』はダイクくんが入る前から作っていたから友達のオータコウジくんや僕がドラムを叩いてる曲もあるんだけと、今回はダイクくんと三人で作った作品です。
ダイクくんが加入してからの新しいアーティスト写真を撮ろうって話になって、30年くらい通ってる練習スタジオにバック紙を引いて撮影しました。三人ともすごく自然ないい笑顔のいい写真になったから、初めはイラストにする予定だったのを変更して、これをジャケットにしようってなって。タイトルはこれしかないだろう、と『DOKI DOKI』になりました。長く手元に置いてもらえる作品になってもらえればと思います」

30年ずっとお世話になっている人たちの話が繰り返し出てきたのもきっと大きな意味があるんだろうな、というのを個人的には感じたり。
ずっと関わり続けてきてくれた人たちとともにバンドは30年間の地続きの物語を生きていて、そうして過去と現在を行き来しながら、あらたな輝く未来を目指している、というまぶしいほどに穏やかでやわらかな現在地がステージの上で輝いていて、そのひとつひとつをこうして音楽だけではなく、言葉でも紐解いてくれていたのかもなぁ。

ややメロウな選曲とたっぷりめのお喋りで楽しませてくれたあとは「ここからは後半戦」と、グッと深くギアチェンジが入り、ヒートアップしていく選曲が続く後半戦へ。
外せないだろうに、と期待していた「風船賛歌」や「春の風」は満を持してここで。
一気に視界が広がって熱量が高まるステージにホール中がみんな目が離せなくなる。
あまりの心地よさにぼんやり身を委ねていたら一気にすごい場所まで連れていかれたぞ。
ステージの上の曽我部さんと田中さんが互いに向き合って楽器をかき鳴らす姿、その真ん中で力強くビートを刻む大工原さん、の構図があまりに美しくて息をのむほど。
「心に雲を持つ少年」で歌われた「ずっと消えない太陽」がまさしくステージの上に輝いていて、目が離せない。
ものすごく純度の高いきらめきに魂ごとに灼かれるような衝撃が溢れていて、サニーデイは3ピースロックバンドとしてここまで登り詰めた凄まじいステージを見せてくれるようになったんだな、と圧倒されるばかり。
あんまり派手に動いたら迷惑かもしれへんし、と遠慮していたのですが、後ろが壁やったから気にせえへんで手を上げても良かってんやん、と気がついたのは「こわれそう」に夢中になってリズムをとっていた終盤になってから。遅いよ!笑
楽曲ごとにさまざまな景色を見せてくれる中で、力強く芯の通ったバンドサウンドとやわらかく真っ直ぐにこちらへと届く歌の力はどんな音を鳴らしてもこちらをとらえて離さない。
煌めきに満ちた音の洪水が続いていった中、会場の空気の色をガラッと変えたのは「雨が降りそう」
いまここで繰り広げられているのは音源の再現のためではなく、3人でどこまでも昇りつめていく瞬間の芸術なんだよね、きっと。
ひりつくような痛みを伴う景色が繰り広げられながらも、そこにあるのはかつて感じたノスタルジーではなく、「いま」を懸命に燃やし尽くす美しすぎるロックバンドの奇跡のようで。
アルバム全体の雰囲気はソカバンの再来っぽさを感じさせるんだけれど、この世界は30年の時間を生きてきて、今なお新しい物語を語り続けるサニーデイ・サービスの現在地なんだなぁと改めて思い知らされるわけです。
いやはや一体……わたしは何を見せられているんだろう?(※一回目)と夢中になりながら圧倒させられるままに本編は終了、ただちにアンコールへ。
熱狂の渦の中、拍手は鳴り止まず、本編最後に選ばれたのは「セツナ」

えっと……いや、楽曲自体が素晴らしいのはもちろんなんですが、あのものすごい高まりを見せてくれたすべてを燃やし尽くすようなパフォーマンスがあまりに衝撃だったんですが!?
目の前で繰り広げられているはずなのに何が起こっているのか訳が分からなくて混乱するほどすごい。あまりの熱気に、席についていた皆も一気に総立ちに。


youtu.be

改めて音源を聴いてみたらいい意味で見えてくる景色がぜんぜん違う! ほんとうにわたしは一体、何を見せられてしまったの?(※二回目)と呆然としてしまうほど。
みんなの中に「とにかくすごいものを見せられてしまった」という思いがあったのか、本編終了のアナウンスが流れた後にも方々から熱量のこもった拍手の音が鳴り響いていたのがとても印象的でした。

いやはや、あまりに凄すぎて一体何を見せられてしまったのか本当によくわからない。(※三回目)
3ピースロックバンドという削ぎ落とされた形態でここまで凄まじい表現にたどり着けてしまうんだな、いまこの時、このタイミングでこの場に来られて本当によかったなと思えた奇跡のような一夜でした。
また行けるといいな。今度はもう8年空けない。笑


BLUEST FACTORYの曽我部さんのイラストのデニムトートを持ったわたし

BLUEST FACTORYのトートバッグがかわいいので記念写真撮りました。お靴はNAOT、靴下はキワンダ。
パーカーもかわいかったけどパーカーって普段着でしか着ないから見送りしちゃった。


「街へ出ようよ」はサニーデイの永遠のテーマだと思うんだけど、なんだかこのポスターのビジュアルとともにジーンとしちゃうね。


※ 呆然としすぎていったん前の席に移って人が捌けるのを待ちながら帰り支度してたら隣のお兄さんが上着忘れてますよって教えてくれました。笑 優しい。

※ 記念に看板の写真撮ってたら前にいたお兄さんたちが「邪魔になるから」ってささっと退いてくれました。サニーデイのファンの人、みんな優しいね。

※すれ違う人たちはお子さん連れから比較的お若い感じの方まで多数。みんな嬉しそうで興奮気味でなんだかこちらも嬉しい。
とにかく余韻が凄すぎてなんだったのかよくわからない(※四回目)……すごかった……と心の中で言いながら(ひとりだもの)春の夜風にあたりながら大阪駅まで歩いてご飯を食べて帰りました。

※でもって具体的な曲やライブ全体の流れがとんでもなくフワフワしているのは心地良すぎて没頭してずっとフワフワしていたあまり、びっくりするほどセトリを覚えていないからです。笑
ツアー中だからか、具体的に言ってくれてる人があんまりいなくて記憶の補完ができない。笑
ライラック・タイム」最高でしたね。

とにかく素晴らしい時間だった、ということが少しでも伝われば幸いです。まだ続いていくツアーに参加される皆さんがどんどん素晴らしい景色を見られますように。
ひとまずは映画が楽しみですね。