午前三時の音楽

ライブの感想などを書いています

2024 小林建樹ワンマンライブ”25周年、一緒に楽しみましょう!”@2024年2月23日 神戸Always


人生の半分近くの時間、四半世紀に及ぶ音楽家としての歩みを辿り、現在地を見据えながらその先に続く〝希望〟のありかを示してくれるようなライブは、ライブ活動を再開してからの二年あまりの中で培ってきた集大成のようなパフォーマンスに思えた。
配信での参加、現地での参加という形でそのほとんどのパフォーマンスを見続けられてきたこと、だからこそ感じ取れるものがたくさんあったことはとても幸福なことだな、と心からそう思います。


記念すべき25周年の節目の記念に行われたライブは今回もまた、東京と、昨年に引き続いての生まれ故郷である神戸で開催!
ライブは生物なので見逃せやしない……けれども、折角の25周年ライブにはどんな曲がどういった流れで演奏されるのかを知らないまま、まっさらな気持ちで体験したい。というわけで、今回は配信を申し込むのをぐっとこらえて当日を迎えることに。

おおよそ男女比は半々、といったところのびっしり埋まった会場に、定刻の18時半過ぎに建樹さんが登場。
オープニングに選ばれた楽曲は「Window」
ご自身のレーベルからの再出発のアルバムを飾る表題作は、いつ聞いても清々しく軽やかでありながら力強く、瑞々しい美しさに満ちている。
この力強い決意表明はまさにオープニングに相応しいな、と聴き惚れていれば続けざまに演奏されたのは「カナリア」! えっ、これは個人的にはすごくびっくり!
長らく音源化されてこなかった、古くからのファンの方にとっては非常に思い出深いものであるはずのこの曲が選ばれたのはきっと、「いまこの時」の気持ちが重なり合ったからこそなのだろうか、と思わずにはいられない。
力強く情熱的でありながら、ひりひりと鮮やかな痛みが胸に迫ってくる歌の世界とザクザクと切り込むようなギターの演奏によるドライブ感がすごく心地よくて本当にかっこいい。建樹さんのギター弾き語りには心の琴線をかき鳴らしているかのような色鮮やかな景色が閉じこめられていて、ほかの誰の演奏でも体験できない特別な出会いがあるよね。
流れるような矢継ぎ早のメドレー(毎回思うことですが、曲と曲のつなぎ方が天才的!)はしょっぱなから名曲「満月」のイントロへ。わぁ、興奮しすぎて息をつく暇がない!笑
たったひとりでの歌と演奏という最小単位までそぎ落とされたパフォーマンスかつ、一曲の中で驚くほどに多種多様な音色が鳴り響く特徴的なアレンジがそぎ落とされた状態でこれだけ聴かせる力があるんだから、本当に驚くべきほどの実力の持ち主でいらっしゃる。
ライブでこうして生で歌うにあたって思い切って原曲からキーを落とした、というエピソードは以前にもありましたが、声の魅力が一切衰え知らずなんですよね。
年代によって歌声が変化していくこともボーカリストの魅力のひとつでありますが、生まれ持った〝声〟の持ち味、その響かせ方が最初から完成されていて、そこに益々奥深い輝きを増した進化を遂げているのがいまの建樹さんなんだよね。
音源でのいまよりもすこし細くて繊細な危うさと焦燥感が剥き出しの世界観もたまらなくすてきなんですが、いまではそこに一本芯の通った力強さや艶のようなものを感じます。
あらたな境地で表現を磨き抜いてきたことをこうしてその都度最新のパフォーマンスを通して教えてくれるから、驚きと喜びで目が離せなくなってしまう。
いやあしょっぱなからこんなにも素晴らしい演奏を見せてくれてどうしよう!? と興奮と感動で胸がいっぱいになっていたところ、ここで最初のMCが。

「27歳でデビューしてから25年経ちました。大体みなさんもその前後の世代だと思いますが、みなさんの25年の時間を思いだしながら聞いていただければと思います」

続いて選ばれたのは先ほど演奏された「満月」のカップリングだったという「JUNK」
おお、カップリングまで網羅できていないので初めて聞かせていただきましたがこれはまた隠れたものすごい名曲だ!(sound gliderと花がカップリングだったと聞いた時には椅子から転げ落ちるかと思ったことを思い出しました。笑)このヒリヒリと切実に胸に迫るかのような景色は当時の建樹さんの感受性だからこそ描き出すことの出来た光景だよね。
〝25年間〟の中で引き出しの奥にしまっていた思いや、積み重ねてきた時間の中で培ってきたものがぎゅっと凝縮されたよう。
思わず固唾を呑んで見守るかのような心地のまま、流れるように演奏されたのが「最初のメロディ」
いや、この流れは予想できるはずもないよ。個人的な前半のハイライトがここだったなぁ。
ここで思い起こしたのは、先日のラジオ番組での25年を振り返るトークの中でベストアルバム「Blue Note」のオープニングナンバーである「replay」に触れた際のエピソード。

「挫折の味を知ってるかいという歌詞で始まるんですが……僕はこの時、歌詞にあるように挫折をしまして」

楽曲で描かれているあまりにストレートな感情の吐露は勿論、その時の心境の苦しさについて〝いま〟の建樹さんがやわらかく穏やかな語り口で話してくださったことにすごくびっくりしました。
楽家人生を振り返る上では避けて通ることの出来なかったターニングポイントだったから、というのは勿論だけれど、こうして長い時を経てきたからこそ、楽曲に閉じこめるほかなかった切実なまでの感情について自身の言葉で触れることが出来るようになったのかもしれないよね。
ただ、このアルバムには〝いまこの時〟のありのままの心境を映し出したかのような「replay」と対になるかのように、最後に収録された〝ここから始まる景色〟を高らかに優しく描いていくもうひとつの新曲が収録されています。
それがこの「最初のメロディ」なわけです。

ピアノとギター、どちらのアレンジでも聞いてきた曲ですが、本当に演奏されるたびに色鮮やかで優しい景色の中に〝いま〟にしか宿せない色が見えて、それは〝この時〟の思いを込めて、目の前に・画面越しにいる人たちにご自分の表現を届けようというまっすぐな思いやりと優しさがあるからこそなんだと思います。
ものすごく胸がいっぱいで泣きたくなってしまうのに、間近でこの音楽を全身で浴びる喜びが勝っちゃうんだよね。(後で配信を見ながら改めて泣きました)

チューニングタイムの小休止の後は25周年にちなんだMC。ここで話題になったのはデビューの際の初めてのPV撮影での裏話。
99年の1月のものすごく寒い日、小さな公園で不慣れな撮影を丸一日がんばったところ……?
「撮影が終わったタイミングで女の子が寄ってきて、サインくれっていうんです」
なぜデビューもしていない自分に? 撮影を見ていてファンになってくれたのかな?? 不思議に思いながらも応じたところ、どうやらどなたかと人違いをされていた(?)ようで……。
「すごく怪訝そうな顔で『シンゴくんはまだですか?』って言われたんですけど……誰やったんでしょうねえ?」

わたしは関ジャニエイトの村上信五さんと人違いされたのでは? と思っています。笑
おふたりとも精悍なスっとしたお顔立ちでどことなく雰囲気に通じるところがある気がするんだよなぁ。さて、真相はどうなんだ!笑

謎を振りまきながらの(笑)25年目の「sweet rendezvous」の蠱惑的でスリリングな世界(何度聞いてもびっくりするような大胆なデビュー曲ですよね。わかりやすい〝新人〟特有の爽やかさやきらきら感とは対極のミステリアスでゾクゾクするようなこの色気!)をそのまま引き継ぐように「魔術師」へとなだれ込んでいく構成が素晴らしすぎた。
好奇心旺盛で貪欲な、無限の探求心の持ち主である音楽の「魔術師」の手腕はデビュー時から既に完成されていたんだな。
月日を経たことで目に映る、届けたいと思う世界や視点が変化しているさまを見せてくれるところもたまらないや。

駆けめぐるあまたの感情にただ夢中でいれば、前半最後に選ばれたのは「トモダチDays」
ワァ! まったく予想していなかった楽曲だからよりいっそう嬉しい!
ここで歌われる〝トモダチ〟は特定の誰かではなく、いままでの建樹さんの人生に寄り添ってくれた沢山の出会いを託した想像上の〝トモダチ〟なのではと思うのですが、きっとその中には我々ファンの存在もいくらかはあるのでは、と思ってもいいよね。きっと。まっすぐ心の真ん中に届けてくれるような演奏と歌声の奥行きの深さと優しさがたまらなく心地良かった。
個人的な前半戦ハイライトだった「最初のメロディ」の後、どんどん演奏と歌に磨きがかかってひとつのライブの中でさらなる進化と成長を遂げているさまをこうして見届けさせてもらっているようで、本当に心からジーンとしてしまいました。
わたしはなんて素晴らしいステージを見せてもらっているんだろう。
ライブという形で楽曲の中に閉じこめられた思いがこんなにも瑞々しくあざやかにあふれ出して、新しい扉を開いてくれる瞬間があるんだ。それもこれもきっと、建樹さんがそれだけの深い愛情で「窓を開けて」向き合ってくださっているからに違いないよね。
止めどない感慨に耽りながら、ここからはまだまだ見逃せない後半戦です!



小休止を挟み、黒のTシャツから白にチェンジされての後半戦。
「ずっとフュージョンがかかっていましたね、神戸はフュージョンが似合いますね」
生まれ故郷である神戸のジャズにこだわったライブハウスは下北沢の音蔵さんと同じく、新しく出会えた関西の拠点としてすごく気に入ってらっしゃるんだろうなぁいい出会いがあってよかったよね。
配信に力を入れた箱で、いまでは珍しくなってしまった配信ライブを続けて下さることも本当にうれしいや。全国各地にファンはいて、そうそうみんなが会場にいけるわけではないものね。

グランドピアノに移られ、恒例となった指慣らしの演奏に続いて披露されたのは「アンブレラ」
おお、ピアノ弾き語りで演奏されるとより一層洗練された音の世界に磨きがかかって、深く澄みきった歌声との相乗効果がたまらなく美しい。
ギターパートで多用されるフェイクやポエトリーやラップ調の言葉を矢継ぎ早にテンポよくたたき込むような歌唱はご本人も度々言及されている佐野元春さんからの影響もあるかと思うのですが、音づくりが本当に洗練されているよね。やりきれない歌詞の世界とシンクロしあうかのような歌声に滲む切なさと弾むような畳みかけるようなテンポでつま弾かれるピアノの音色の心地よさは極上の輝きが満ちている。
ものすごく純度の高いきらめきを放てるようにと、磨き上げられてきたものに深く感じ入ります。
続いて演奏されたのは「イノセント」! わぁこれは!!! 反則!!!
原曲に閉じこめられたピュアでまばゆいほどの、繊細で危うい青年の〝イノセント〟の結晶のような世界が楽曲と共に長い時間を生きて、痛みや迷いに寄り添いながら歩んできたその先に見えた景色を思いながらいまこうして演奏してくださっていることがありありと伝わってくるんですよね。
こうして現在と過去が地続きに演奏されることで、より一層と積み重ねてきたものの美しさが感じられるなぁ。

続いてのMCは曲のキーによって与える印象の話。
「キーがDの曲は明るい曲が多いと言われているんですが、Dの曲は確かにそういった曲が多いんですね」
音楽に対する探求は引き続きライフワークとなっているご様子だと思っていいのかな。その成果をこうして毎回我らに実演を伴いながら見せてくださるのだから、うれしいよね。
自分の曲からもDの曲を、とここで披露されたのはセカンドアルバム「Rare」から「ANTNIO」~「Rare」
おお、すごく意外かつうれしい選曲だ!
ここでまたもや思い出したのは先日のラジオでの「Rare」発売時のエピソード

「ファーストの時には時間もたっぷりあってじっくり制作が出来てすごく楽しかったんですが、この時にはすごくめまぐるしい状況に追い込まれていて……解決出来ない悩みに追われて、思うように声が出なかったりする時でもスタジオを抑えている日にはレコーディングをしないといけなくなって」

楽曲を聞いているとすごく繊細で内向的な人なんだろうなっていうのはおのずと伝わるよね、特に20代の頃の楽曲はヒリついた焦燥感や閉息感が露わだよね、というお話を開演前にもしていたのですが、改めて聞いてみても、生々しいほどの息苦しさと葛藤を驚くほどの軽やかさで楽曲の中に落とし込んでいることにびっくりさせられます。

〝表現〟は往々にして実生活の中では容易く他者と分かち合うことの出来ない・表出させることのない感情を預ける場所としての機能があるからこそ、作品の中に落とし込んだ痛みや戸惑いに実生活を生きている生身の自身の言葉で言及することには少なからずの痛みや戸惑いを伴うものだと思うのですが、自身の言葉やそこに込めた思いに真摯に寄り添ってくれる・受け取ってくれる人がいるという安心や信頼があるからこそ、非常にデリケートなものであるはずの当時の心境についてもご自身から語られるようになったのだろうか、などと思ったり。
〝作品〟に落とし込んだ自身の核となるような危うくてむき出しな領域と表向きのコミュニケーションの中で表出させる感情や振る舞いのバランスを取ることはすごく難しいことではないだろうかと思うのですが、25年の道のりを歩んできた中でたどり着いた〝いま〟はその内と外とのバランスが程良く整った状態なのかもしれないね。
「突き抜けたような明るさがあるなと思った」とはご本人の弁ですが、歌詞の世界には内政的な息苦しさが閉じこめられているのに、すっと光が差してくるような開放感が心地よさをくれるんですよね。
その一見アンバランスな危うい美しさが建樹さんの音楽のもつ魅力なんだよなぁと改めて思わされます。
やがて話題は何かと気になる体調のことへ。
「あんまりするのもどうかなぁと思ったんですが……身近でいいかなぁと思ったので」
ネガティブなことや自分の弱さや迷いについて、作品の外で触れることにためらいながらも〝打ち明ける〟ことをあえて選ぶようになられたのが最近の建樹さんのモードなんだな、というのが慎重に言葉を選びながらのお話からも感じられますね。

深夜にYouTubeのショート動画で関西の男の子が食べ歩きをするグルメ動画を二・三時間見てしまう、という建樹さん。
「イヤなことがあったので戦います! って言ってラーメンとか餃子とか丼物をわーっとたくさん食べるんですね。わぁ、いいなぁって思って」
自分ではもうそんなに沢山食べられないから「いいなぁ」と思ってしまうとのこと。ちょっと切ないね。笑

「実は去年ちょっと健康診断に引っかかってしまい……呼び出されていろいろと指導を受けまして」
去年のライブの前に病に臥せっていて――と発言があったのは関連してのことだったのかな。いや、早めの発見でよかったよう~。
製作期間は座りっぱなしで根を詰める作業にどうしてもなってしまうからクリエイターと健康上のリスクは避けては通れないものですよね。

やがて話題は新作に収録された「キミ晴、語る」について。
AIが説法をする、という不可思議な世界観とロボット風の歌唱が相まった楽曲の歌詞が漢字とカタカナだけで綴られている理由は、昨年武道館の側にある日本資料館に行ったことがきっかけになったのだということ。
「日本の中心のような場所で……この世の感じがしない、すごく違和感を感じる世界なんですね」
神秘的なものに惹かれる、という建樹さんならではの感性が感じられるコメントだ。

「展示された資料はみんな漢字とカタカナで表記されていて、いいなと思ったんです」
現代の技術であるAIと明治政府の公式文書での表記を出会わせるとは、ユニークな発想だね。
ここで、東京ではあまりしなかったという歌詞の解説が実演を交えて披露。(これは両公演に参加ファンにもうれしいサプライズですね!)

「『拝金主義ニ乗リ出シタ人情店ノムーブ』という歌詞なんですけど、これは人情だけでやっていたお店がしまってしまうのは切ないな、もっと値段をあげてくれてもいいのにという気持ちで書きました」
お金の話をするのはタブー、ナンセンス、という価値観もありますが、『持続可能な暮らし』のためには避けては通れないものだもんね。批判ではなく寄り添いの言葉である、と明言してくれるところに優しさを感じるや。
この曲に限らずのことですが、音源ならではの歌唱方法やアレンジが施された楽曲たちが生の演奏になるとこういったアプローチで演奏されるんだ! という新鮮な驚きがあるよね。
そして「これ」が生演奏の完成では決してなく、絶えず試行錯誤と実験を繰り返しながらの最新のチューニングが施されて、楽曲のもつ可能性を広げていく新鮮な「体験」として届けてもらえるんだよね。
さて、最新の楽曲からぐるりと時間軸を遡って過去へと降りて演奏されるのはファンクラブ限定楽曲だったという「生存本能」(!)いやあ、ものすごくいい曲な上にまったく古びることのないみずみずしさを纏っていてびっくりさせられるんですが!?
このところ話題になる若手の音楽家の方の作品に建樹さんや2000年代初頭のシンガーソングライターの空気感を感じることがわたしにはあるのですが(実際にその世代の楽曲を通ってきたであろう音楽ファンの方がTL上で話題にされていることも多いです)、相互に影響を与え合っているところはありそうだよね。
メドレー形式で流れるような軽やかさで紡がれる「ヘキサムーン」の歌詞の世界とメロディの驚くほどのタイムレスな唯一無二の煌めきに圧倒されながら心を弾ませて聴き惚れていれば、ドラマチックに弾むピアノの旋律が奏でるのは「歳ヲとること」わぁあ!!! 全部好きだけど(笑)ほんとうにほんとうに大好き!
「春の風が~」と2月下旬の〝いま〟を切り取る終盤へと一気に駆け抜けるショートバージョンで締めくくるメドレーになっていたあたりもなんとも感慨深いや。

「『歳ヲとること』は25歳くらいの時に作ったんですけど、いいタイトルだなぁと思って」
そのころから倍以上歳を重ねたいま、感じ入ることも多いようで……。
「東京に出たのが26歳の時で、ちょうど26年経つんですが……26歳から自分のベーシックを作るというのはちょっと無理でした」
人と深く関わることの難しさを感じたという言葉には、普段の語り口はやわらかく人なつっこさを感じさせてくれるのに、楽曲に閉じこめられた世界そのものはひどく張りつめていて繊細、という建樹さんのアンバランスなあやうい魅力の礎を感じるよう。
「自分の音楽生活は決して順風満帆とは言えなくて……すごくでこぼこだったと思うんだけれど、それでも曲を聴いたりライブに来たり感想を伝えてくれたりと応援してくれる人たちがいて。すごく支えてもらっているなと」
それは我々も同じ! だなん言っちゃうとおこがましいけど、そうとしか言えないよね。
表現という内へ内へと向かっていく探求と、それを人に届けること・伝えようとすることはいつでも対極の行いになるものだから、それ故の自身の心身のコントロールの苦しさはどうしてもつきまとってきたのではと思うのですが、苦しみや葛藤があった、うまくできなかったという戸惑いや痛みは『いまも尚、向き合い続けている乗り越えてきた過去』であるのだということ、その道のりの中で、絶えず見守り続け、いまもこうして目の前で、画面越しで応援しているオーディエンスの存在が支えになっていたのだ、と打ち明けてくれる姿にはとても誠実な優しさがありありと感じられて、なんだかすごく胸がいっぱいになっちゃうね。

「今年はたくさんライブをやろうと思っているので……そのときにはまた、裏切らないような曲を作るので支えていただけると」
次の節目の30周年を既に見据えていらっしゃる建樹さんからの本編最後に選ばれた贈り物は「祈り」
ここまでの流れを締めくくる上で本当にぴったりのエピローグであるのと同時に、〝現在地〟を優しく照らすようなパフォーマンスになっていたことにすごく感じ入ってしまう。


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なんとフルで無料で公開してくださっているので配信期間終了後も何度も見られるんです。うれしいね。

さて、本編終了後にはまもなくアンコール。
KOBECCOという雑誌に取材された記事が3月に発行される最新号に掲載されます、といううれしいお知らせの後に披露されたのは、なんと新曲!の「Good Times&Bad time」

「22歳頃に作ったけれど完成できなくって、アルバムの制作中にもぐるぐる回っていました。ほんとうはもっと元気な応援の曲にしたかったけれどできなくって」
25年間の苦難の道のりや、「いま」の社会の状況を取り巻く息苦しさや混乱を思えば、100パーセントのポジティブな感情を届けることは難しい。
それでも、「いい時も悪い時もある、そんな人生にそれでも誇りをもって歩み続ける」という優しい意思表明がここにはあるよう。
ここで思い出さずに居られないのは以前のライブで語られた言葉

「去年くらいから今年にかけて、音楽をやっていく上での姿勢――気持ちの持ちようを、明るい感じでやっていこうと決めていたんです。もともとそんなに陽気ではないけれど明るくもない……普通くらいなんだけれど、頑張って明るくしようと思って。そのくらい明るくやっていかないと、世の中がそのくらい暗いムードの中にいるから普通に暗くやっちゃうと埋もれてしまう感じがして」

(2023/1/27 吉祥寺Star Pine's Cafeでの高橋徹也さんとの対バンより。書き起こしではないため、ニュアンスは各自で脳内補完をお願い致します)
love-lylic.hatenablog.com


無理をしない、自分の不都合な感情にも目を背けない、痛みや戸惑いを決して置き去りにはしない。だからこそ描ける言葉や表現があるということを教えてくれるようなパフォーマンスだね。

ギターからピアノへと移られ、本編最後に選ばれたのは表題作である「Gift」
流れるようなやわらかく豊かなピアノの音色、囁き声のような優しい響きを携えながらの歌声に載せてのメッセージがまっすぐ胸に届く様に、なんだかもう胸がいっぱい。
なんて素晴らしい贈り物だろう。
演奏を終えた後は、リラックスしたようすで一言。
「最後わかった? キー、Dなんですよ」
なるほど、複線回収!笑
〝いまこの時〟を明るく締めくくってくださった建樹さんの茶目っ気たっぷりの優しさは、この二時間あまりの贅沢な時間がどれだけあたたかな贈り物となったのかを象徴してくれているかのよう。
幸せな時間をありがとうございました。


恒例となった撮影タイム。思い出を自分のスマホに残せるってうれしいよね。


わたし「いますごく胸がいっぱいで……まだうまく言えないので後で沢山しゃべります。(笑)
ほんとうにどれも素晴らしかったんですけど、『最初のメロディ』にすごく胸を打たれました。会場で見ていると生で感じる喜びで胸がいっぱいになって、改めて画面越しに配信で見ているとまっすぐに思いが届いて泣いてしまうことがたくさんあります。配信と両方で楽しませてくださってほんとうにありがとうございます。また帰ってからたくさん見ます」

じゅうぶんよーけしゃべっとるやないか、って思われそう。笑 帰りの電車に乗る頃には早速ずっとしゃべってたもんね。笑
割と言語化スピードが速いかつ、ホカホカのうちに話したいタイプなんだろうな。


CDを持ってくるのを忘れてしまったので次に……と言ったら「持ってるものにサインしますよ」とおっしゃってくださったので手帳にサインをいただきました。お優しい~。
バレンタインの本命チョコ(笑)もお渡しできてうれしかったな。

ささやかすぎるものではありますが、建樹さんが音楽を通して届けてくださった温もりに満ちた「Gift」に応えることができていればいいな。
素晴らしい時間を本当にありがとうございました。

セットリスト

1.Window(アルバム Window )
2.カナリヤ(アルバム 流れ星Tracks)
3.満月(アルバム 曖昧な引力)
4.How?@東京(アルバム Window)/Junk@神戸(満月のカップリング)
5.斜陽@東京(アルバム Music Man)/最初のメロディー@神戸(アルバム Blue Notes)
6.Sweet RendezVous(アルバム 曖昧な引力)
7.魔術師(アルバム Gift)
8.トモダチDays(アルバム 流れ星Tracks)
9.水瓶座(アルバム 何座ですか?)
10.アンブレラ(アルバム Gift)
11.イノセント(アルバム Music Man)
12.アントニオ(アルバム Rare)
13.Rare(アルバム Rare)
14.キミ晴、語る。(アルバム Gift)
15.生存本能(アルバム ファンクラブの特典楽曲)
16.ヘキサムーン(アルバム Music Man)
17.歳ヲとること(アルバム 曖昧な引力)
18.祈り(アルバム Rare)

アンコール
1.Goodtimes & Badtimes(未発表曲)
2.Gift(アルバム Gift)

東京、神戸、ワンマンライブ、ありがとうございました! | 小林建樹オフィシャルサイト

「斜陽」はいつ何度でも聞きたいので東京の配信もやっぱり買えばよかった。笑

積み重ねてきた25年間があるからこその希望を掲げられる「現在地」と「未来」があることが感じられるライブだったな。
確かな手ごたえや喜びが次につながろうとしている、とお聞きできるのがうれしくって仕方ないや。

でもってすごくさらっと次のライブの予定が発表されていますね!?
6月……まだチケット出る前だけど行く予定のイベントがあったんですが、福岡に行きたいなぁ。


<余談>
開演前に会場の外で待機していたところ、「らいさんですか? ブログ読んでます」とお声を掛けていただきました。そんなことってあるの!?笑
(服装が奇抜なのでわかりやすいらしく、フォロワーさんがこちらが名乗る前に気づいてくださることが多数あります。笑)
(あんまり需要がないと思ってたまにしか洋服の写真とか載せないのにな。みんなよう見てくれてはるんやね。笑)

「10年前のライブの感想を読んでからライブ行ってみたいなぁって思って行きました」
「フォロワーさんがおふたり、わたしの感想をきっかけに配信を買ってくださったことがあるのでこれで3人目です。笑」

一言二言の感想はみなさんつぶやいてらっしゃいますが、ツリー形式で事細かにレポートされる方やブログなどに記事を書いてSNSにアップする人はめっきり減りましたもんね。
楽しんで書いていることに思いがけず効果(?)があったようでうれしいです。

「なんであんな事細かに文章書けるんですか」(ありがたいことによく言っていただけます)
「おたくだからですね。笑」
まったくもってドヤるところじゃないけれどただの事実なんだよな。笑


終演後、スタッフさんがお声を掛けてくださいました。
「いつもありがとうございます。東京公演の配信を我慢された甲斐はありましたか?」
「ええとっても! いま恒例の余韻で足が震えてうまく歩けないタイムです!笑」
アッハッハ、このアカウントの人だってばれてたぞ。笑

建樹さんのあたたくて優しい音楽の世界を支えてくださっているみなさんは優しい方ばっかりなんだな、と改めて感じ入るような夜でした。
またの機会がいまから楽しみです。それまではたっぷり二週間(!)の配信を引き続きたくさん見ます。うれしいな。

高橋徹也・山田稔明 友だち10年記念 “ YOU’VE GOT A FRIEND”@2023年10月21日 大阪 雲州堂


会場は北浜の知る人ぞ知る、なカフェやインテリアショップなどの立ち並ぶ界隈の雰囲気抜群の箱。
木造りのステージがすごくおしゃれ! 天井の高さも音の通りが良さそうでいいなぁ。よくあるライブハウスとはまた違う心地よい空間だね。


定刻少しすぎ、客席の間の通路をかき分けるようにして山田さんが登場。
主催だから?? 今回は京都と違ってソロ編成なの?? と思ったらご本人曰く「年功序列
白いシャツに濃いめのチノパン姿は永遠の文系大学生のようだ。
網膜剥離のためにおやすみされていたのち、復帰二回目&復帰後初の遠征ライブ! 
道中を楽しみつつも、「皆様にご心配をかけて……ライブも飛ばしてしまって」と恐縮したごようす。
正直こんなに早く復帰できるとは思ってなかったよ。ほんとうにお疲れ様です。
「みなさんちょっとでもおかしいと思ったらすぐ病院に行ってくださいね!」
と、注意喚起も忘れない。笑
ゴメスとソロ曲、新旧交えながらのラインナップは30周年を迎えるバンドの、音楽家としての歴史を辿るよう。
出力される表現の色合いは違えど、文学性を感じさせる音楽世界や都市の風景を切り取った歌詞など、共通して根底に流れているものはあるのかな。
ネオアコの系譜を引き継いだエヴァーグリーンなサウンドの煌めきと真っ直ぐに解き放たれる優しい歌声の魅力が優しく溶け合ったパフォーマンスはまるで時間を超えて届けられた手紙のよう。
いまの山田さんの表現力で演奏されるからこそ見えてくる景色もあるんだろうなぁ。
みなさんうっとりと優しい音楽に酔いしれ、合間の軽妙な冗談混じりのMCにはあたたかな笑い声がこぼれる場面も多々。
山田さんは関西でも定期的に企画ライブを行われてるからか、山田さんの熱心なファンの方たちからの「おかえり!」ムードはあったのかもなぁ。

MCの内容をすこしご紹介。
(順番はばらばら、言葉のニュアンスは各自で脳内補完してください)

「僕は視力が悪くてコンタクトをしてるんですが、右目だけコンタクトで左目は裸眼なんです。これは手術で目にレンズを入れたからなんですね。目が反射して光るんですよ」
山田さんはサイボーグヤマーダに進化した!笑

「看護師さんには山田さん前を見ちゃダメですよ! 下を向いてください! ってきつく言われて……上を向いてとか前向きにって散々言うのにねえ?笑」

治療期間は急なお休みとなったため、普段なら時間もなくてじっくり見られないドラマや映画を見たり本を読んだり……と思っても目が使えないのならそれもできない。
戸惑いながらもなんとか過ごされてきたとのこと。
いやあ、メンタルにもかなり堪える状況であったはずなのにこれだけ明るくあっけらかんとお話してくださる山田さんのおおらかさよ。

(毎日のポートフォリオについて)
「左目のカメラというフレーズが出てくるんです、まるで予言みたいですよね」

今回の大阪への旅は山田さんの目の件もあり、運転は高橋さんが担当。
大型トラックとの一触即発? な場面など、さまざまな楽しいトラブルを乗り越えつつ西へ向けて爆走する高橋さんとの久しぶりの二人での長距離ドライブはかなり楽しかったご様子で、これだけでドキュメンタリーが出来そう。笑
「久しぶりに遠征をすると、高速道路もホテルも値上げラッシュで特に土曜は宿が取りづらくて手配が大変でした。今後は日曜や平日のライブが増えるかも」
気候の良い中で出かける人も随分多く、社会が動き出したんだな、というのを痛感したそう。
みんながみんな土日休みのお仕事ではないとは言え……エンタメ業界は変革を迫られつつある時期なのかな。

(高橋さんとの出会いについて)
「存在は知っていたのにおたがいにいけすかないと思っていて挨拶もしたことがなかったくらいなのに、10年前の共演をきっかけにお互いの最新作だった「新しい青の時代」「大統領夫人と棺」を聴いてものすごく刺激を受けあってそれからすぐに意気投合して」
作品を通してシンパシーが繋がるとは、芸術家ならではだ。

ところでその親友が出会ったライブには三人目がいたんですよ、三人目の大天才が。
そう、小林建樹さんが。笑
当日は(高橋さんの熱心なファンの多い)わたしのフォロワーさんたちも多数いらしてたようなんですが、メジャー時代以来ぶりに建樹さんの生でのパフォーマンスを見た皆様が度肝を抜かれていたのをよく憶えています。笑
三者三様に素晴らしい個性と才能の持ち主なんですが、建樹さんのライブにはめちゃくちゃ突き抜けた伸びやかな美しさが溢れていて、とてつもない「曖昧な引力」が爆発してるんですよ。知らないで出会ったらお口ぽかんで椅子から転げ落ちそうなくらいの衝撃だよね。笑)

話題が逸れてすみません、がまんできなかった。笑

(「glenville」について)
「これは架空の都市について歌っている曲です」

こうして楽曲の生まれるまでのエピソードを合わせて聞かせてもらえるのはライブならではだね。
「都市を描く」って点でも共通点があったんだな。

やがて、30年の音楽家としての軌跡を辿る時間旅行はあたたかな祝福と光に包まれた「夜明けまで」を披露し、まばゆい光でフロアを包み込むように終了。

山田稔明ソロ セットリスト
1.アップダイク追記
2.何もない人
3.情熱スタンダード
4.サテライト
5.毎日のポートフォリオ
6.glenville
7.光と水の新しい関係
8.光の葡萄
9.夜明けまで


ここから後半戦、ステージにはボタニカル柄のシャツにジーンズ姿の高橋さんが登場、ここから一気にいまでとは会場のカラーが変わります。
久しぶりの関西、親友である山田さんとの二人旅、雰囲気も最高な会場に満員のお客さん、と気分は高まるばかりのよう。

「関西では28年前にKiss FMで高橋徹也 Blue Cafeというラジオを一年ほどやっていて、ジングルなんかも作って。もうどんか曲だったかまでは覚えてないんですけど。聞いてらした方、いらっしゃいますか?」
(後方にいらした男性が手を挙げる)
1月のライブでも四半世紀を超えた音楽家人生の歴史を楽曲に落とし込んだ景色に寄って振り返るようなパフォーマンスを見せてくれましたが、あらゆる角度からこれまで積み重ねてきた時間に光を当てて、「いま」を描いていくというのが昨今のテーマなのかな。
さながら「巻き戻す時間」だね。(わたしはHARCOさん/青木慶則さんの音楽がとても好きです)

一度きりのデビュー曲を、というMCから軽やかに解き放たれるように演奏された「My favorite girl」の瑞々しい美しさといったら!
他の方を引き合いに出すのはナンセンスかもしれませんが、高野さんの「See you again」といい、演奏されるたびにどんどん良くなっていくね……。
豊かな人生経験は解き放たれる表現に角の取れたやわらかな瑞々しさと奥行き、新たな輝きの魔法をかけるのかもしれない。
続く「八月の流線型」のやわらかな瑞々しく煌めきに満ちた世界はまるで爽やかな風が吹き抜けるよう。
おや、なんだか今日の高橋さんはものすごく軽やかでキラキラしている。
親友である山田さんとのライブ、というリラックス感もあるのか、どこか山田さんの持つ楽曲世界の空気を身に纏っているようないつもとは違うオーラがあるぞ。

共演者であり10年来の親友となった山田さんには音楽家としての多大なるリスペクトがあるようで、ラブコール(?)もバンバン出てくるほど。

「山田君は言葉選びに無駄が一つもなくて、洗練されているんですね」
おお、歌詞の世界にどこかしら共通項を感じていたら高橋さんもそこにリスペクトを置いていたんですね。
「山田くんのファンに自分の音楽に触れてもらえるのがすごく嬉しい」
と得意げな様子にこちらもニッコリ。
新たな出会いが広がるのが対バンの素晴らしいところですもんね。

「関西ではリリースライブがやれなかったので初めて披露できるのが嬉しい」
と特別な思いを込めて披露されたのは「怪物」
おお、ここでそれが選ばれましたか! とはいえ、これしかない感はありますよね。
「怪物」は20代の自らを懐かしむような、宥めるような不思議な優しさと底知れなさを孕んだ名曲ですが、そこからその当時の楽曲へと「降りていく」構成はお見事。
チャイナカフェのかっこよさは言わずもがなですが、名曲「新しい世界」の力強い瑞々しさと風通しの良さは圧巻の一言。
いつ何度聞いても素晴らしいんだけど、この日のパフォーマンスは本当に軽やかで色鮮やかで、一気に視界が開けてみるみるうちに音楽の渦に飲み込まれてしまうような感動がありました。
狂おしいほどの深度で闇を見つめているかのような、心地よい孤独に堕とされていくかのような「犬と老人」に穏やかな浮遊感を感じられたのも素晴らしかった。

「僕は古い考え方だとは思いますが、男は泣かないという主義で…….そんな僕が珍しく人前で泣いたことがあります。一度目は一年担当したラジオが終わる時で、本当に悔しくて悲しくてスタッフの前で泣き崩れて」

そんなに大切な番組だったんだね、しんみり。

「二度目はお母さんが亡くなった時でした。兄貴やお父さんが泣いているのを見たのも初めてで……それだけ偉大な人だったんだな、と思います」

この日のライブの数日前に亡くなられたお父様のお誕生日を迎えられていたことも関係してたんだよね、きっと。
全ての聴衆が自分のファンではない場で、あくまでも明るく軽やかにとても大切なことをわたしたちにそっと打ち明けてからの「Feeling sad」にはいつもに増して胸がいっぱいになりました。
日常の当たり前の風景の中で喪失を受け止め、それでもその悲しみを乗り越えて続いていく人生を音楽とともに歩み続けよう、という高らかで美しい決意表明のようだね。

さて、あっという間に高橋さんはラストの一曲へ。

「この曲はデビューシングルになり損ねたんですが、20年余りの時を経てアルバムタイトル曲になりました」

披露されたのは「スタイル」!!!
いや、ものすごく瑞々しくて力強くてかっこいいからびっくりしたけどそんなことあるの!?
四半世紀の時間を行き来しながら突き抜けるような鮮やかな軽やかさが駆けていく、素晴らしいエンディングでしたね。

高橋徹也パートsetlist
My Favourite Girl
八月の流線形
怪物
チャイナ・カフェ
新しい世界
犬と老人
feeling sad
スタイル


ソロステージが終わり、まもなくして二人揃ってのアンコールへ。

山田さん「友達10周年ライブって企画に関しては色んな人につっこまれましたよね」
高橋さん「バンドメンバーから『そんな区切りのライブやっていいんですか?』って言われたよ」

うん、正直笑いました。笑

シンガーソングライター同士は横の繋がりもなく孤独な人同士で馴れ合わないのが基本……なのに作品を通してお互いへの興味がグッと高まって珍しくすぐに連絡先を交換しあい、そこから10年の密なお付き合いがはじまったというおふたり。
お互いにプライベートな雑談、音楽に関する情報交換、制作に行き詰まった時の弱音まで吐き出せる仲なのだとか。

山田さん「どこどこであのレコード売ってたよみたいな話からレコーディングの状況まで。全部やり直したみたいなのとかも。だから僕はタカテツさんの制作状況を全部知ってるんです(得意げ)」
高橋さん「毎日のように何かしらやり取りをしてて、彼女かよっていう。笑」

みんなおもてたけど大人やから言わんかってんやで。笑
なんだか大学生がファミレスで夜通しおしゃべりしてるノリが続いているような親密さですよね。大人になってそんなふうに深くつながり合える友達が出来るだなんて素敵だな。
そんなふたりの正式な出会いは10年前の共演と思いきや……?

山田さん「僕は映像制作の会社でADをやっていて、その時に撮影に行った先で流れていたものすごくカッコいい曲に衝撃を受けたんです。それがタカテツさんの『真夜中のドライブイン』で。だからあのPVにはクレジットされてないけど僕も関わっています(得意げ)」
高橋さん「山田くんは共演するたびに毎回律儀にその話をしてくれるよね」

初めて聞く人もいるかもしれないことを忘れない!笑
そして、話題は10年前の共演についても。

山田さん「10年前にセッションでビートルズやる? っていったら僕はストーンズ派だからってタカテツさん断ったんだよね。そんな人いる!?笑」
高橋さん「いまなら断らない。笑」
山田さん「こないだイマジン歌っててびっくりしたんだけど」
高橋さん「先輩バンドマンにやろうって言われたからハイって」

人は丸くなるんですね。笑

二人ともの原風景にあるというスミスのカバー、前回の京都公演ではアアルトコーヒーの庄野さんとの共演だったため、お互いに縁のある庄野さんへのリスペクトを込めて、とつくられた唯一の共作曲の「君と僕とカップソーサー」を披露。
親友ならではのリラックスした息の合い方、寄り添うような歌声のハーモニー。
この二人が共に歌うと、お互いにそれはもう見事な伴走者になるんだよね。1月の建樹さんとの共演で見せてくれたものすごい天才の個性が真正面から合流して驚くようなUNERI をもたらしていたのとは全然ちがう!
風や光を感じさせるような伸びやかな心地よさが溢れています。
これだけ息ぴったりのふたりなんだし、是非とも今度はレコーディングしてほしいですよね。
4年前にはふたりでアルバムを作ろうって話もあったんだけどなぁ。

山田さん「僕もタカテツさんも他の人の作品にゲスト参加することはほとんどないんだけど、タカテツさんには僕のアルバムにコーラスとかで参加してって話は前からしてたんだよね。タカテツさんの新作にも呼んでほしい」

山田さんはHARCOの「春のセオリー」がパッと思いつくけど、高橋さんはないよね。
楽曲提供とかプロデュースワークもやらない人だもんなぁ。

今後のお二人の予定としては「次は北へ向かう」とのこと。
おおー! 四季を駆け抜けるふたりの旅はまだまだ続くんだな。
「真夜中のドライブイン」で出会ったふたりが四半世紀先の未来でこんなふうに二人旅に出る親友になるだなんて、なんだか運命的だね。
親友二人で行われるライブは満を持してと言わんばかりの「友よまた会おう」で締めくくり!
本当に名曲だし、我慢しきれなくなって笑 ライブに行き始めた2023年のわたしにはとてもとても心に響くなぁ。
音楽がまともに聞けなくて腐っていた間にも希望を繋いで待っていてくれたからまたこうしてこんな素晴らしい夜にたどり着けたんだよ。


音を出しちゃいけない時間ギリギリだから……と気にしつつもボリューム抑えめで「友よまた会おう」をリプライズしながら最後は恒例の撮影タイム。
この笑顔があれば言葉はもういらないね。

高橋徹也 × 山田稔明 セッション>
1.幸せの風が吹くさ(山田稔明)
2.真夜中のドライブイン高橋徹也
3.THERE IS A LIGHT THAT NEVER GOES OUT(The Smiths カバー)
4.君と僕とカップとソーサー(共作曲)
5.my favorite things(山田稔明)
6.友よまた会おう(高橋徹也


さて、せっかくなのでフロアにいらっしゃるおふたりに感謝を伝えて帰りましょう。

わたし「山田さん、ご病気すごく心配していたので安心しました。ほんとうにお疲れさまです」
山田さん「いえいえ、ご心配をおかけして……」
わたし「山田さんのファンのお友達から高橋さんとの2マンよかったよ〜ってお聞きしたので京都の高橋さんのライブの日に『またやってくださいね』ってお伝えしたらツアーをやりたいですっておっしゃってくださってすごく嬉しくて……何度も来てくださってすごく感激しました。4年ぶりにまた関西に来てくださって本当にありがとうございました」

山田さんは終始にこやかでお優しくてなんだか安心感があるなぁ。
お土産もお渡ししたので高橋さんにご挨拶へ。

わたし「1月とはまたみえる景色が全然違っていて……あの時のバチバチに緊張感のあるステージとは打って変わった、山田さんの空気を身に纏ったような優しくて爽やかな高橋さんも素敵でした」
高橋さん「またバチバチさせますよ」
そうこなくっちゃ!笑

わたし「7、8年前?(なんと10年前でした!)の鹿島さんとのデュオ以来の大阪、本当にうれしかったです。静岡での佐藤さんとのデュオも大変素晴らしかったので、またああいった感じで大阪にもきてくださると嬉しいです」

わたしが7.8年前って言うてもうたからか、そんなのありましたっけ? って言われちゃった。笑 たくさんライブやってるから仕方ないよね。笑
お話させてもらいながらお土産などお渡ししたあと、帰り際にぼくは大事なことをお伝えしました。

わたし「我らファンは10年前の建樹さんも交えた3マンの再来をいつまでもお待ちしております!」

高橋さん、「おや?」と興味ありげ?? に見えたので……山田さんと話題に出してくれてたらいいんだけどなぁ。
ぼくは『夢は口に出すと叶う』ってことをこの一年くらいで立て続けに経験したんですよ、建樹さん関連でそれはたくさん。笑
叶うといいんだけどなぁ。そろそろお三方の新譜も聴ける頃だろうからちょうど良くないです?笑



この先20年、30年と親友同士の音楽の旅が続いていきますように。

小林建樹ワンマンライブ「BLUE MOON ~不思議な夜をご一緒に」 9/9 名古屋COTAN

東京でのライブを行った一週間後に地方でのライブ、といった形式で行われるのは4月の東京/神戸と同じスタイル。
配信で東京公演を繰り返したっぷり楽しんだ翌週には現地に参加できるだなんて、つくづく贅沢な時間を過ごさせてもらったな、という感慨で胸がいっぱい。

10年ぶりの名古屋公演ということで、いつも以上の気負いはあった様子ですが、終始和やかであたたかな幸福感に包まれるような時間に感じられました。
さてはて、拙いプレーバックのはじまりはじまり。

※メモなどは取っていないうろ覚えですので、細やかなニュアンスは皆様で脳内保管してください。

love-lylic.hatenablog.com

配信で見た東京公演の感想はこちらからどうぞ!



会場は駅から直結(なんと、階段を登っていく途中にある!)、アクセス抜群な沖縄料理屋さん。
心地よくアットホームなおしゃれな空間で、種類豊富なドリンクの他にはゴーヤーチャンプルーやカレーなどのフードも充実していてなんだかわくわく。
おお、物販に噂の(?)アクリルスタンドが!

わたし「高橋さんのファンの間でアクスタがほしいって話題になってたんですけどまさかの建樹さんのアクスタが出てびっくりです(笑)」
スタッフさん「すっごく背が高くてすらっとしてらっしゃいますもんね〜。(笑)立ってるやつはなんか違うかなってなってこんな感じにしてみました」

さりげなく飾れる感じが素敵ですよね。

わくわくおしゃべりなどしながら開演を待ち、定刻の18時半過ぎに建樹さんが登場。
東京公演と同じくブルーのアロハシャツにジーンズ、グレーのニューバランス、首元には配信では見えなかったウッドビーズのチョーカー。
ギターをかき鳴らしながらひとたび歌い出せば、たちまちに身体中がびりびり震え出すような音の洪水に全身が喜んでいるのを感じられて魂が震えます。
自分のタイミングでおうちから参加して繰り返し見られる配信もすごくありがたくて楽しいけれど、鼓膜を伝って細胞まで震えるような文句なしの心地よさ、カメラ越しでは伝わらないまなざしの煌めきや生き生きとした表情をこうして間近で受け止められるのは生で観させてもらうライブならでは!
とにかくこの気持ちよさに浸りたい、と目を瞑って聞き惚れ、目を開いてプレーに見惚れる、という二部構成スタイル(笑)を行ったり来たり。
10年ぶりの名古屋公演が実現したことはやはりかなり肩に力が入っているのか、時折やや走り気味になるペース、歌詞が飛ぶ、などのトラブルもありますが、その揺らぎすらこの一期一会のライブの醍醐味を感じさせてくれるよう。
同じ曲目、同じ流れのMCの実質的な再演とは言え、場所と時間が変われば当然ながら生み落とされるものは同じにはならない。
特に曲と曲の間に挟まれるこぼれ話のようなおしゃべりは東京公演よりもややリラックスした雰囲気に聞こえたのですが、今回のこのライブを通して伝えたいメッセージ・コンセプトをきちんと受け止めてもらえた安堵感や、地方公演ならではの高揚感とアットホームな歓迎ムードがそうさせていたのかな。
全身で音楽を奏でているかのような力強いパフォーマンスでびっしり汗ばみながら歌う姿はたまらなくかっこよく、大人の色気もふんだんに味合わせてくれながら、ふっと溢れる心底心地よさそうな優しい笑顔やおしゃべりの場面でのやわらかな語り口はたまらなくキュート。
独特なハイトーンの伸びやかで力強い歌声の中に様々な表情を潜ませてこちらを翻弄してくれる様といい、本当に奥深い魅力のある方だよね。
かっこいいと可愛いとセクシーを毎秒ごとに自在に行き来するから脳が混乱してくるんですよ。みんなもわかるよね?笑

(From yesterdayについて)
「これはサビのない曲で、こういうーーyesterday〜♪ あれっ、歌詞が飛んだ! たくさん練習したのになぁ。笑」

すぐ持ち直してらっしゃいましたが、ご自身でもびっくりされていたよう。笑

「これは『昨日』を紙屑に例えた歌詞なんですね」

さりげなく手の内を明かすように話してくださるんですよ、興味深いなぁ。

タイプの違うように思えるcau cau〜From yesterdayのつながりもそうですが、曲と曲とのつながりが毎回ものすごく練られているのに関心させられます。
楽曲に込められた世界や狙いをこちらへと明かしてくださる軽やかでユニークなMCを挟みながら、みるみるうちに生み出される世界の中に手招きをしながら引き込まれてしまう。
弾き語りでのスタイルに削ぎ落とされたからこそ際立つ独自のメロディラインの美しさと、ここにきてますます持って高められていく歌の表現力の深さが改めて全身に染み渡ってくるよう。
感情と五感を震わせて何倍にも増幅させるような不思議なこの力こそ、「曖昧な引力」なんだねきっと。
我らはもうずっとこの曖昧な引力に導かれるままに建樹さんの生み出す音楽世界に恋していますよ。

とにかく感情がフル稼働させられるのが建樹さんのライブですが、当たり前ではあるけれど、生で観させてもらうのと画面越しでは感じるものがまた全然違うな、というのを再認識しました。
画面越しでの初見の時にはパフォーマンスに込められた想いをどう受け取るのか、咀嚼することに脳がフル回転させられたのですが、わたしにとっては一度『核となるメッセージ』を受け止めさせてもらってからのライブであり、おそらく建樹さん側にも『会場に/画面越しに』集まってくれたお客さんに思いがきちんと届いた、と実感を得られてからのステージになるのでおのずと心の余裕は生まれるし、体と心がただひたすらこの音楽体験を喜んでいる。
溢れるような多幸感がもう半端ないや。

様々な角度から心の内を照らし出し、神秘的な夏の終わりの夜を切り取るステージは新曲「魔術師」の描き出す力強くミステリアスな世界が放たれる事でますますヒートアップ!
Silenceのどんどん高まるボルテージとアカペラで歌う場面の力強さ、演奏されるたびに新たな色を見せてくれるデビュー曲「Sweet Renndez-Vouz」と、とんでもない興奮と感動を繰り広げていく事で前半パートは終了。

余談ですが、10年前のライブでは「当時のいろんな心境が詰まっているから、一時期は歌えなくて避けていた」との発言がありました。
その際に「今回はバンドでのライブだけれどひとり寂しく歌います」とピアノでアレンジされたSweet Renndez-Vouzがそれはもう素晴らしかったので、あれをまた聴きたくてたまらないや。


さて、ものすごくものすごくてすごい……からホカホカのうちにお話ししたいけれど電波が入らないや。笑
でもきょうはお友達とお会いできたからこの感動をお話しできるんです! うれしい!

ぼく「どんだけ歌うまなるんってびびるんやけど……天井しらずやで」
あさこさん「曲のつながりが気持ちすよすぎてこれで酒が呑める」

熱中症気味だった僕が追加のドリンクを頼む中、あさこさんは元気にお酒のおかわりを頼んでいらっしゃいました。笑


さて、ここからはピアノに移られての後半パートですが……おお、東京と衣装が違う! 明るいエメラルドブルーで羽根模様がプリントされた白いシャツがとても爽やかでお似合いでいらっしゃいます。
「祈り」は何度聞いてもほんとうに心にまっすぐに届きますね。
演奏を終えられた後、ほっとした表情で鍵盤の上でふわりと掌が舞うあのお馴染みの仕草がまるで、無事に歌えた事への音楽の神様への感謝を捧げるお祈りのように美しかった。
流れるままに、提供曲「灯台」〜「夏の予感」〜「3minutes」の聴かせるナンバーがフロアを魅了してくれます。

「前に名古屋に来た時にはバンドで、リズムで沸かせる! って感じの人たちやったんで……(宮川剛さんと千ヶ崎学さん!)バラード3連チャンはちょっと勇気がいったんですよ」
アップテンポな建樹さんも最高にかっこいいんだけどね。バンドでもやってほしいな〜!

(「灯台」について)
「すごくよくできた曲だなぁと思って……いっぱい練習したんです。うまく歌えてたでしょう?」(はにかみ笑顔)

うん、ものすごくとびっきり!笑

東京公演という『練習の成果』を発表した場を終えてからの地方公演には、旅の楽しみと高揚感もおありのご様子。

「名古屋は今やってる『どうする家康』の舞台じゃないですか。すごくテンションがあがっていて。大河は真田丸から熱心に見てるんですが、ほんま家康はどないするんやろ〜って夢中で見てます。こないだ用事で江戸城の方に行ったんやけど、ここに松潤おってんなって思いました」

聖地巡礼だ。笑

(「君たちはどう生きるか」の音楽に感銘を受けた事、ジブリ映画について)
ジブリの映画で初めて観に行ったのは高校生の時に神戸の映画館で観たトトロが初めてでした。僕は同時上映の火垂るの墓が目当てやったからトトロってどないやねんと思ったら映画館の中を子供が走り回っていて」
会場内、どっと笑い声があがります。
「でもトトロめっちゃ面白くて、走りたくなるのわかるわ〜って。こんな音楽がエンディングに流れるんです」
(トトロのテーマソングを実演)
この時、建樹さんの視線の先にオーナーさんのお子様なのであろう小さなお客さまがいらして、嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねているのが見えました。
わたしはこのタイミングで気づいたのですが、以降の曲の間もずうっとリズムにのって元気いっぱいに楽しんでいて、ほんとうにかわいらしかった。
あんな素敵なお客様の反応を見ながらの演奏、すごく特別な体験だったんだろうなぁ。

「次に観たのは大阪の映画館で観た紅の豚で、この時はお客さんは三人しかいなかった。その次はもののけ姫、ここからはもうストーリーにちょっとついていけなくなって」
ファミリー向けエンターテイメントを脱却して、ご自身の核にあるものを表現する芸術の方へと向かわれていきましたもんね。

しっとりと聴かせるバラードから一転、ピアノでこんな表現ができるんだ!? という天才的なリズム感と伸びやかに跳ね回る歌声はどんどんフロアを沸かせ、促されるままの手拍子とともに熱狂と興奮を高めていく「SPooN」で本編は終了。まもなくアンコールへ。

「今回はグッズを作りました。ファスナーポーチ、これは財布とかを入れるのにいいかんじです」
もっと薄い……マスクとかチケットとか向きでは。笑
財布がわりになるって意味かな?笑 聞き違いだったらごめんなさい。笑

「アクリルスタンド。こうやってね(譜面台の前に飾る)飾るとちょっといい感じでしょう」

ライブの記念になる&素敵なお写真を手元に見られるグッズ、良いものですね。

(新曲、「ペルセウス」について)
「今作ってるアルバムが結構重たい感じになってしまいそうで……ちょうどいい感じになるかなって」
発表されている楽曲を聞く限り、かなりストレートなメッセージで切り込んでいく内容のようですもんね。

ペルセウスの流れるような美しさ、満を持しての最初のメロディーのまっすぐ心に響く多幸感溢れる世界で本編はこれにて終了。
また来ますんで、の言葉にうれしくて胸がいっぱいになっちゃうね。
本当によかった、本当に……と思っていたら、あれっ?笑

(ピアノの前に座った建樹さん)
建樹さん「ここで、撮影タイムです(笑)」
スタッフさん「撮影された写真はSNSにアップしてください」


え、新しい! 高橋さんの影響ですか!?(笑)
みんな夢中で激写しまくります。



さて、ふわふわして足が震えますがこの嬉しい気持ちをお伝えして帰りたい!
並んでいる間の皆さんの愛の溢れるおしゃべりを存分に楽しみ、どきどきしていたら建樹さんが目の前に!

わたし「配信も素晴らしかったんですが、全身で浴びる音楽がほんとうに心地よくて……どれが、とはほんとうなら言えないんですが、最初のメロディがほんとうに素晴らしかったです。いまの建樹さんの気持ちを込めて歌いたい、と選んでくださったことにすごく感激しました」
建樹さん「嬉しいです、いつもありがとうございます」

それはぼくのセリフです、とがち照れしました。
今年はこれで3回目ですもんね、まさかこんなにお会いできるだなんて。夢じゃない、これは夢じゃない!笑
次は新作のお披露目ライブでしょうか? いまからすっごく待ち遠しいですね。

宮崎でのライブ以来9年ぶりだった、というあさこさんがラブをめいっぱいに伝えていらっしゃるのを待つ間、スタッフさんがお声をかけてくださいました。

スタッフさん「いつもありがとうございます、今日も来てくださってるなってお見かけするとほっとします」
わたし「わたしもです(笑)」

あさこさんと高橋さんのライブで会うたびに建樹さんにまたライブをやってほしい、高橋さんと共演してほしいと話していた事、7年前から高橋さんの歌う満月を聴きたいと夢見ていたため、夢が叶っておめでとうと言ってもらったこと(笑)、配信ライブをやってほしい、と口にしたらほんとうに叶ったうえに6年ぶりのライブがあまりに素晴らしかった事、「またやるって言うてたけど次っていつ〜?笑」と言っていたらまさかのほぼ4ヶ月おきのペースになっていること(!)、12月のライブにあまりに感動して、直後に会った建樹さんをまったく知らない友達に(笑)思いの丈を話していたことなど、ラブが止まらない。笑

わたし「20年前の建樹さんの音源に残されている表現も素晴らしいんですが、ライブ活動をこうして再開されてからの建樹さんが『いま』の表現であらたに向き合ったものを届けてくださることにすごく感激します。どんどん磨き抜かれていくんですよね」
スタッフさん「6年の間にコロナ禍もあって色々変化もありましたしね。そんな中で、また新たにアップデートされた、進化した表現になっているのがとても素晴らしいですよね」

ファンと同じ目線に立ってアーティストの表現に心から感動し、それらをわたしたちに送り届けるために尽力してくださるスタッフさんがこうして活動を支えてくださっているんだな、と思うとすごく嬉しい。
様々な事情で会場に赴けないファンがおうちからでも楽しめる配信を引き続き行ってくださるのも本当にありがたくて感謝しています、とお伝えさせていただきました。

本当に本当に素晴らしい時間で、名古屋旅行もすっごく楽しかったです。
行けてよかったなぁ、ほんとうに。


次は新作のお披露目ライブでしょうか? いまからすっごく待ち遠しいですね。

「BLUE MOON ~不思議な夜をご一緒に」 セットリスト


前半 ギターパート
1.COLONY(3rdシングル”青空”のカップリング曲) 
2.Am6(アルバム_Shadow) 
3.満月(アルバム_曖昧な引力)  
4.cau cau(アルバム_Mystery) 
5.From Yesterday(アルバム_Mystery)  
6.魔術師(新曲)
7.Silence(アルバム_Music Man)
8.Sweet Renndez-Vouz(アルバム_曖昧な引力)    


後半 ピアノパート
9.祈り(アルバム_Rare)  
10.灯台(提供曲) 
11.夏の予感(アルバム_Music Man) 
12.3minutes(アルバム_Rope)  
13.不思議な夜(アルバム_Rare)  
14.花(3rdシングル”青空”のカップリング曲)  
15.SPooN(アルバム_Rare)


アンコール
1.ペルセウス(新曲) 
2.最初のメロディー(アルバム_Blue Notes)


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ホテルでしみじみと感慨にふけってしまいました。
今回もまた、「夢やってんかな?」と思うくらいにすごく素敵な時間でした。


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めっちゃほんわかしたのでお伝えしてよかった。笑
ほんとうに素敵だったんですよ~。


tateki.net

緊張?! とびっくりしてしまう手応えの感じられるステージだったのですが、たしかに序盤は特に、ところどころ歌詞が飛んでしまう場面もありました。
その完璧じゃない生々しさもライブの醍醐味ですよね。
いよいよアルバム制作が大詰めと思っていいのかな? 楽しみです。

小林建樹ワンマンライブ「BLUE MOON ~不思議な夜をご一緒に」 9/3 下北沢 Com.Cafe 音倉

4月末に行われたワンマンライブに引き続き、夏の終わりを迎えるこの時期に建樹さんのライブがふたたび開催!
新しい作品の制作に取り組みながら、季節ごとに「現在地」をライブで示していくというスタイルになったということなのでしょうか。
東京会場には残念ながら足を運ぶことが出来ませんが、なんと今回も配信があるんです! バンザイ!
というわけで、画面越しに参加しながら受け取ったもの、考えたことを個人的なメモとして残させていただきます。
もしよろしければ、おつきあいいただければ幸いです。

※当然ながら全面的なネタバレを含みます。配信ライブの視聴前で及び、名古屋公演をまっさらな気持ちで楽しみたい方はご注意ください。



会場はすっかり東京でのホームとなった下北沢の音蔵さん(オリジナルドリンクは美味しいし、スタッフさんもとても親切でお優しくてアットホームなすてきな箱です!)
配信機材のトラブルを経て、ネイビーベースのアロハシャツ(とってもお似合い!)の建樹さんが登場。いつものようにアコギでの弾き語りでスタート。
ん、この曲はすごくいい曲だけど……?(「Colony」、Spoonのカップリングだったそう)ワァオ、しょっぱなからまさかの選曲だ。
歌声もつま弾かれるギターの音色も角が取れたようにやわらかく澄んでいて、それでいて奥行きの深さが感じられて一気に引き込まれますね。
そのまま流れるように「Am6」、配信のカメラはリズムをとる足下まで移してくれるぞ!
このハイトーンボイスとフェイクの掛け合いのスリリングさ、たまらないものがあるね。
メドレーはそのままノンストップで続き、「こんばんは、小林建樹です!」とおなじみのご挨拶を挟みながら名曲「満月」へ。
序盤のこの流れ、痛みや苦悩の中で手探りでもがきながら「満月」の光に導かれて手を伸ばしていく青年の姿が見えるような見事な流れですね。
パフォーマンスのクオリティはもちろんなんだけれど、毎回ライブの中でひとつの流れを通して伝えたいコンセプトが貫かれているかのよう。

ここで、小休止の最初のMC。
「ご来場のみなさま、トラブルがありましたので後で配信でごらんのみなさま、ワンマンライブBlue Moonへようこそ」

満月の前後にワンマンライブを行うことが多いという建樹さん。今回のコンセプトはとても珍しい8月にあった二回の満月に合わせての「神秘的なイメージ」だったそう。

「神秘的って言ってもわからないですよね?笑」

わからなくもないけれど、まぁふんわりはしてるね?。笑
そこで建樹さんなりに導き出した答えは「恋する気持ち」
何かを好きになる気持ちは自分の意志ではコントロール出来ないものだからこそ、どこか神秘的な不思議な力を感じる、とのこと。
あ~言われてみると確かに!
わたしがラジオで頻繁にかかっていた時期にはなぜかあまりピンとこなかった建樹さんの音楽を10年越しでものすごく大好きになったのもなにか神秘的な力に導かれた恋するような気持ちとしか言えない!笑
音楽や芸術に恋をしている建樹さんの表現に我らもまた恋をしているんだねきっと。
やがて、MCは次に演奏する曲の解説へ。

(From Yesterdayについて)
「二曲目に歌います。これは出だしのところだけ先に出来ていて、それから7年くらいかかって」

(Cau Cauについて)
「ネットショッピングにはまっていた時に書いた曲です。お金を払うことが気持ちよくて、ものが届いてもなんだかぼんやりしてるっていう怖さを歌った曲で」
2020年のコロナまっただ中に発表された曲だからこそ、その気分が色濃く反映されている感じは受け取ったかなぁ。

順番じゃないのはMCでの解説の流れから繋いでいけるように、ってことなのかぁ。
Cau Cau、アップテンポでポップなメロディラインと建樹さんの持ち味のハイトーンでちょっとコケティッシュな歌い回しがばっちりはまってるんだけれど歌詞はちょっと批評的でスパイスが効いてるんだよな。
「ほんとにほしいものにいつか出会えますように♪」のところが切なくて大好きです。
続いて、アップテンポな楽曲が続いたいままでからは打って変わって、しっとりと歌い上げる「From Yesterday」へ。
青い光に照らされながらとても大切に思いを込めるように歌われる歌声は、いつも以上にメロディの美しさと言葉の輪郭が際だって聞こえるよう。

(新曲、「魔術師」について)
「この曲はメッセージソングなんですね。僕は歌詞を書くときには意味よりも言葉の響きを重視するから、意味がわからないことのほうが多いんですが、今回は書きたいことがあって」

楽曲の芯となるテーマに選んだのは「だまされるな」というメッセージ。

「世の中は本当に混沌としていて、いろいろな考え方があるのは飲み込むしかないと思うのだけれど――そんな不安な中で、人をだまそうとしている輩がいることを許せないと思いました」
「サビまでは語り手が歌っているんだけれど、サビからは悪人が歌っているというテイになります。メロディは80年代の歌謡曲のような快楽的なメロディを意識して作りました」

以前ラジオで披露された「Myster」の解説もたいへん興味深いものでしたが、ご本人自ら楽曲の世界について紐解いてくださるとはすごくスリリングだ!
わたしにとっての魔術師=音楽の世界の奥深くへ誘っていく建樹さんの存在のように感じられて、なんてスリリングでかっこいい曲だろう! とドキッとさせられたのですが、自らその仕掛けについて語ってもらえるとは、なんて興味深い機会だろう。
建樹さんご本人も語られたように「疑え」という強いメッセージを打ち出しながらも、サビからは蠱惑的な魔術師の巧みな誘い言葉で畳みかけてこられるんだから、ユニークな構成ですよね。
魔術師が甘い言葉で囁いてくるぞ、という「手の内」をキャッチーなメロディラインに載せてくることで、逆説的にその恐ろしさを描き出している、と思えばいいのかな。
ライブごとに表現の切り口やコンセプトは毎回少しずつ変化しているように感じますが、特に今年に入ってからは「時間の流れ」と「自己開示」を建樹さんが大きなテーマとしてライブの主軸に据えているのはたしかなんでしょうね。
「大丈夫」の優しいエールだった「It's OK」からは一転した新しい景色がこんなにもスリリングで美しいものなんだから、この人の持つ感性の引き出しの奥深さには魅入られるばかりだ。
続いて、ミステリアスな美しさがさらに増した「silence」は誘惑にあらがうことが出来ないままに魔術師に見せられた幻影のように響いて聞こえるのがたまらない。
この流れはまさに「不思議な力にあらがうことが出来ないまま飲み込まれていく神秘的な夜」を体現しているようだ。ここから夏の夜の神秘をより深く広げていくかのような「Sweet rendezvous」に流れるあたり、お見事としか言いようがないですね。
ラジオでも以前語られていた、「舞い降りれる♪」のくだりのスリリングな美しさはまさに「曖昧な引力」に飲み込まれていくよう。
わたしは圧倒的な芸術が体現されていると、その捕らえ所のない美しさに畏怖の念のようなものを感じるのですが、建樹さんの楽曲世界にもそういったものを感じるんですよね。
容易い理解や共感を寄せ付けないような捕らえ所のない世界へと、不思議とキャッチーで心をざわつかせる魅力的なメロディと歌声でぐっと引き寄せられてしまう感じ。
デビュー当時からそういった世界観が見事に完成されていて、その世界に込められたものを「いまこの時」の色でまた新たに描いてしまうんだから、その都度我らは驚かされてしまうばかり。いやあこの音の魔術師、ますます目が離せないぞ! と思わせてくれたところで前半戦は終了です。


さてはて、休憩を挟んでの後半戦。指慣らしのピアノの旋律に続いて鳴らされるのは言わずもがな、の名曲「祈り」
ここで披露されるのは前半の「魔術師」を経てのアンサーのように個人的には聞こえました。
深く自分を見つめればおのずと答えは見つけられるはず、と優しく諭すように歌われるこの曲はいつ何度聞いてもお守りのように心に響くね。

続いて、MCの内容は以前のラジオでも数度にわたって語られた提供曲について。
ラジオではさわりだけをピアノ弾き語りで披露してくださいましたが、なんと今回はフル尺で聞かせてもらえる!
セレクトされた楽曲は松浦亜矢さんに提供された「灯台


youtu.beHound Dogもセルフカバーで聴きたいな、ものすごく建樹さん節全開だよね。)



「自分の曲を作る時と提供曲を作る時には気持ちが違うという話をいまからしますね」

前置きからはじまるの、なんかあたらしいね。笑
気になるその「違い」がなんなのかというと……。

「自分の曲は7割くらい出来たら完成にしてしまうんですが、提供曲は8~9割の完成度を目指すんです」

なぜそういった完成度に持っていけるのかの秘訣がなんなのかというと、提供曲を作る際には先人の生み出した既存の名曲のエッセンスを引き出しに作るようにしているが、自分の曲を作る際にはその方法論を用いず、自らの考えたメロディで一から作りたいと思うから。
おお、職業作曲家として/シンガーソングライターとしての矜持がそうさせるのかな。

「自分の楽曲の場合は一から作るとそこまで持っていけないので、7割でいったん完成させてからライブで仕上げていくことで、歌いながら見えてくるんです」

いまこうして新しい作品を作りながらライブの場をもうけてくださるのは、ブラッシュアップして完成させる場を求めていらっしゃるからなのかな。

(「灯台」について)
「すっごいしっかりした曲だなと思って。がんばって歌います」

女性の視点で叶わない恋心を歌う、という完全なフィクションだし、あれだけ歌のうまい松浦亜矢さんに提供された楽曲なこともあり、スタンダードナンバーのバラードとしての完成度がすごい楽曲なんですよね。
ピアノ弾き語りでこうしてご本人の歌う姿を見られる日がくるだなんて、発表時から知っていた方は本当にびっくりしたろうな。
男性の歌うセルフカバーならではのしっとりとした切なさとふわりと香り立つような色香をまとった美しさがたまらない。

続いて、流れるようにピアノの旋律が奏でるのは「夏の予感」!
このつなぎは誰も予想できるはずがなくて、ほんとうにびっくり。
楽曲の持ち味や描かれる景色は当然ながら見事に異なっているんだけれど、メロディの美しさや伸びやかな高音に包み込まれる心地よさは通じるものがあるなぁ。
メドレー形式で続いて演奏されるのは「3minutes」
このどうしようもない切なさと、痛みや弱さに向き合いながらまっすぐ前を見つめようとする優しさ。いつ何度聞いても本当にすばらしい楽曲なんだけれど、この流れも相まってとても心に迫ってくる!
心の隅々にまで染み渡るように優しく広がっていくのがたまらなくって、こうして感想を打ちながら誇張じゃなく胸が苦しくなってしまうほど。笑

「MCで提供曲と自分の曲の違いについて話をしましたが、歌っていてそのとおりだなぁと思いました」

ご自身でも提供曲のようなクオリティでの曲を自分の曲では作れないことが長い間「気持ち悪くなるほど」コンプレックスだったとのこと。

「こういう機会でもないと考えないので、MCしてよかったなぁって」

「誰かに伝えるため」に思考に潜っていくこと、そこで見つけだした答えをアウトプットすることでしか開けない扉ってあるんですよね。そしてそこで得た「気づき」は自身の危うさを支えてくれる指針になる。
それは誰かに「教えてもらった」思想では決して成し得ることが出来ない。
おお、まさに「魔術師」と「祈り」が違う角度から照らし出してくれたものの片鱗があるようだ。
活動を再開されてからの建樹さんがライブ中に聞かせてくださるお話には、ご自身のナイーブな部分を包み隠さずに打ち明けたり、思考の森に深く潜っていった先で見つけた感情や景色を楽曲以外の面でも「伝えよう」という強い意志を感じます。

やがてMCは少し前まで病に臥せっていたこと、回復された後に「君たちはどう生きるか」を見に行った話へと。

「音楽がすばらしかったんですね。冒頭をあけたところで初めて鳴る曲がこんな曲で――」
(ピアノでメロディを奏でる)
「オーケストラもなしにピアノだけの音で、これは音楽を始めたばかりの人が弾く基礎のコード進行なんです」
久石譲さんは元々はミニマムミュージックの人なんですね。ミニマムとは最小単位の音を鳴らすこういった楽曲で――」
(ピアノで実演)

注目する箇所を音楽に絞って鑑賞した、とはさすが音楽家ならではだ。
大半が専門外なのであろう我らに向けてこうして解説を交えてお話してくだるあたり、ご自身の音楽との向き合い方・接し方について「わかるように」伝えたいと思ってくださっているということなのかな。
優しく丁寧な語り口で芸術に寄り添うように生きるご自身の思考や感情を開いていくお話はやがて、今回のタイトルに冠された「Blue Moon」について。

「興味のない人にはなんのこっちゃや? と思ったんで日本語のタイトルもつけたんです。『不思議な夜をご一緒に』っていうんですけど、なんのこっちゃや? ですよね。『素敵な夜をご一緒に』のほうがよかった(笑)」

会場からはくすくす笑い声があがっています。
画面越しに見ているわたしは「そんなことないよー!」って叫びたい気持ちになりました。笑(応援上映スタイル)

「不思議な夜っていうのはまさにこの9月の夜のことなんです。生ぬるい風が吹いていて、あたたかくて、夏で……万能感に満たされていくような感覚を味わうんです」

20年越しに開かされた種明かしを経ての「不思議な夜」のこの軽やかな美しさとまばゆさと完成度が本当にもう言葉で言い尽くせないほどにすばらしくって。
個人的にこの曲に受けるのはナイーブでイノセントな感性の持ち主がありのままに不安や焦燥に向き合いながら前に進もうともがいている姿で、だからこそ「万能感」という言葉にはすこしびっくりしたのですが、不安や迷いも戸惑いがありながらも表現したいものはあふれんばかりだった才気あふれる若者の胸の内を覆い尽くしていた「万能感」が昇華させた芸術があの楽曲世界を生み出していて、生々しい痛みも伴っているからこそ、一時期は遠ざけていたそれらの楽曲を、当時感じていたことに今一度立ち返りながらあらたな命を吹き込む機会が訪れたということなのかな。
続いて流れるように演奏されるのは「花」! 
ピアノ弾き語りで披露されるのはわたしがライブを見るようになった10年前から定番となっていますが、本当に文字通り鮮やかな花が咲きこぼれていく光景みたいなんだよね。
わたしはすごくすごく悲しかった時に「欲張るぶんだけ優しくなりたいな」がものすごく心に迫ってきてお守りのように大切に心に刻んで繰り返し聴いていたことを聴く度に思い出してしまいます。
当時の建樹さんの楽曲世界の切実でまばゆい輝きを放つさまに自身の揺れ動く大切な感情を預けて聴いていた人はきっとわたしのほかにもたくさんいるんだろうな。
跳ね回るピアノの軽快な音色と、客席から自然とわき起こったのであろう手拍子が渾然一体となり、一気に高らかに登り詰めていくかのようなSpoonで本編は終了。
音楽のたぐいまれなる力を借りるようにして、どこまでも高みへと軽やかに登り詰めていく姿を見せてくれるかのような奇跡みたいな楽しさだ!

まもなくしてアンコールへ。
病み上がりなこともあり、不安はあったけれど咳も出ずに歌い切れた、とほっとしたようすで話されるお姿にこちらもほっ。

(新曲、「ペルセウス」について)
「何座でもないなと思ったけれど、ちょうど8月にくると聞いてちょうどいいなと思って」

この神秘的な夜にたちまちに飲み込まれていくような独自なメロディライン、建樹さんの真骨頂だよね。流れるままに軽やかに紡がれるピアノは「最初のメロディ」へ!
ほんとうにいつ、何度聴いてもすばらしいんだけれど、この日、この流れでここで聴かせてもらえることでまたあらたな出会いを果たせたような気持ちになってしまう。
幾度となく傷つき、戸惑いや痛みに苦しみながら「とりあえず前に進むしかない」と時に暗中模索で歩み続けた人がこの世界に生まれてきたこと、表現したいことがあるという喜びを高らかに歌ってくれることに本当に感動するのですが、「いまこの時、歌いたい」とわたしたちに届けてくれたことが本当に嬉しいです。
類まれなる豊かで美しい世界に「恋する気持ち」がまっすぐに胸の真ん中に去来させられてしまうし、建樹さんが届けてくださった「愛」の瑞々しさやどこまでも純度の高いきらめきがありのままに閉じこめられているよう。

「またライブやりますんで」との、何よりも嬉しい言葉と満ち足りたようすの優しい笑顔とともに本編はこれにて終了。


本当に幸運なことに、建樹さんのライブを会場・配信で合わせて見させてもらうのはこれで4回目なのですが、その度に新たな色鮮やかで美しい景色を見せてもらえることに驚きます。
感情の扉がいくつも開いて、心を震わされるような新鮮な驚きと喜びがあふれていて、言葉ではたやすく言い尽くせるものではすこしもないのだけれど、残したくってたまらない気持ちにさせられます。

時の流れを経て変化していくものがあったこと、それでも楽曲の中には「その時」のかけがえのない宝物が閉じこめられていて、それらをいまだからこそ見える俯瞰からの視点で優しく振り返ることで新たな芸術を描き出しているように見えて、そこにすごく感動させられてしまうのかな。




一回目の視聴時の感想。

感情の奥に眠っているものや、何かを受け取った時に感じる衝動だなんてものは容易く言葉で言い表せるようなものなんかではないのだから言葉になんてならないのが本来は「あたりまえ」なんですよね。
そもそも、心の内にあるものは取り出した時点で変容してしまうから、本当の芯にあるものなんて形になるはずなんてない。
それでも、「あきらめてしまう」ことを選ばない・選べない人が伝達手段として表現を世に送り出すのだと思います。


(結果的に色濃く心境が映し出されてしまった、というところはあるのかもしれない)
(わたしはものすごく時々短歌を詠むんですが、概ね心象風景ばっかり詠んでいるので「これはどういう意味ですか?」って聞かれても答えようがないんですよね。そういう感覚に近いのかなぁ。おこがましい話ではありますが)


「わかりやすい意味合いに落とし込んでパッケージして手渡すようなものではない、感覚や直感に導かれるままに」と自由な発想で作品を生み出していたのであろう人が(結果的に、そこにはすごく鮮やかで切実なものが落とし込まれているようにわたしは感じるのですが)「こういったことを伝えたい」「こういった意図やねらいを込めて、こういった方法論に基づいて作り上げた」と、ひとつひとつを紐解くように語ってくださることや、しきりに「伝わるかな?」とはにかみながらお話してくださるというのは本当に驚くべき大きな変化だと思うのですが、それだけ「目の前にいる人たちに言葉と心を尽くして伝えたいと思う勇気、それをきっと受け止めてくれる人たちがいるはずだと信じる大きな愛と信頼、そしてなにより、その芸術を叶えてしまう磨き抜かれた技術力の結晶」が見えるようで、だからこんなにも心を動かされてしまうのかもしれない。

すばらしい時間に立ち会わせてもらえて、それらに出会えたからこそ感じ取れたものをこうして残せたこと、そして何よりも、こうして目を留めて読んでくださる方がいらっしゃることが本当にうれしいです。
ここまでおつきあいくださりありがとうございました。つたないなりに東京公演の感想もまとめられたところで、元気に名古屋に行ってきます。

小林建樹ワンマンライブ”ふるえて眠れ”@04/30 神戸ALWAYS

2月に発表された新曲「震えて眠れ」をタイトルに冠したライブはなんと東京と、建樹さんの生まれ故郷である神戸での初めて! のワンマンの二公演。
関西でのワンマンだなんて10年ぶり! しかも一週間前の東京公演は配信で観られる!
めちゃめちゃびっくり&嬉しくて(なぜなら一ヶ月前にしばらくライブがないので制作に集中されるとアナウンスされていたから)(しばらくってなんやってんやろ。笑)発表されたタイミングではあんまりうれしくて泣いたものです。

というわけで、うきうきで胸がいっぱいな中、建樹さんの生まれ故郷、神戸でのライブのはじまりはじまりです!
5/14まで視聴可能の配信チケットはこちらで購入できます。少しでも気になられたらぜひどうぞ!

※当然ながら全般的にネタバレを含みます、配信を視聴前でまっさらな気持ちで楽しみたい方はご注意ください。
※配信で観た東京公演の感想はこちら、よろしければ合わせてご覧ください。






会場となったのはジャズのライブなどがよく行われているのだという、駅近で雰囲気のある箱。程よく横幅の狭いステージにはあちらこちらにカメラがセッティングされているぞ。(この複数台のカメラによるとんでもない高画質&高音質、映画並みのアングルの凝りに凝った映像美に帰宅後のわたしはびっくりさせられます)
客席からは、再会は10年以上ぶりだという同級生のみなさんのお喋りも聞こえてきくるあたり、地元ならではだね。
こうしてびっしり客席が埋まってることが始まる前からすごく嬉しい〜!

定刻少しすぎ、nervous colorsから本編はスタート。
いや、東京公演も半端なく素晴らしかったですがますますいよいよ持ってアップグレードされてますね!?
歌声の伸びやかな美しさ、楽器と渾然一体となって全身で音楽を奏でられた時の高揚感が半端ない! 
いや……知ってるけどすごすぎへんか? これがデビュー24年目の人が奏でているだなんて、と圧倒されてしまうほどに歌声と演奏の艶と奥深さがすごい。円熟と瑞々しさの両方が備わっていて、びりびり心を痺れさせてくる。
この声ほんまに目の前の人から出てるんやんな、この人の声帯はどうなってるんや、と1月にも観たはずなのに改めてすごくびっくり。
演奏が始まった途端にフロアを一気に染め上げてしまうこの世界観がすごいんだよ。楽曲の持つ素晴らしさをパフォーマンスの力によって何百倍にも増幅させてしまうんだから。

ここできょうのファッションチェック
紺のTシャツ、紺のジャケット、ウォッシュの入った細身のブルージーンズ、くすみブルーにピンクのNマークのニューバランス
このところ定番のお衣装ですね。このカラーリングかわいいなって足元をじいっと見ちゃう。

いやあ知ってるけどほんますごい、見る度に最高を更新してくるのやけど……と一曲目からびっくりしすぎてビリビリしていたところ、流れるようにsound glider〜満月へと。
楽曲の持つ多彩な色ももちろんだけど、やっぱりこの独自のハイトーンでキュートさと艶かしさ、繊細でありながら芯の強さを感じさせる声は唯一無二の武器であり、財産だなぁ。
歌声と演奏を渾然一体とさせてしまうパワーに溢れていて、歌うようにギターを奏でるさまにたまらなく惹きつけられてしまう。

(満月の前奏中)
「こんばんはー、小林建樹でっす!」

お、ちょっと前回よりも勢いがある。独特の緊張感は毎回あれど、テンションはやや高めなのかな。懐かしい人の顔も見えているだろうしね。

ここで最初のMC。
ライブ活動の再開から一年、応援してくださってありがとうございます。(こちらこそ、楽しませてくださってありがとうございます!)と、感謝の意を込めてくれたあとは、今回の開催地、神戸について。

「僕は神戸出身で、デビューする前に神戸で作った曲がたくさんあって、1stアルバムにもたくさん入ってるんですけどそれ以前にもたくさん曲を作っていてーーリリースとか全然してないんですね」
どこにも出していないけれど、自分の中で節目になる大切な想いが詰まっているから、と歌い続けている曲があるのだそう。
「どこでも歌ったことがないんですけれど、せっかく神戸でのライブなのでワンコーラスだけ歌います」
と、なんと25歳ごろに作ったのだという未発表曲「月が震えた」をここで披露。
瑞々しさとピュアネス溢れる世界が四半世紀を超えたいまの建樹さんの表現と合流しあうことで、煌めくような優しく澄んだ世界が見えてくるよう。
わー、これが未発表でフルコーラス聴けないだなんてもどかしいな。それでもこうして機会をくださったことが嬉しくて仕方ないや。
そのまま、流れるように「Boo Doo Loo」へ。
今回のための特別アレンジを入れた間奏ももちろんたまらなくカッコいい!
建樹さんの成熟した魅力と天性のリズム感、振れ幅の広さを感じさせてくれるメドレーだね。

「きょうは新幹線が30分遅れ、マンションのエレベーターに閉じ込められ、とトラブル続きで。いまは水星逆光の予期せぬことが起こる時期なんですね」
無事に辿り着いてくださりありがとうございます、お疲れ様でした。

やがて話題は新曲「震えて眠れ」と、音楽映画「中央線のプレスリー」へ。
ふいにアイデアが降ってきて構想が生まれた、とのことですが、そこに至るまでに複雑な心境があったことは間違いないよね。(window/shadowの時期だよね)(この2枚からセレクトされた曲があったのも意味があったのかな)


youtu.be

時を経たことでその頃の気持ちや、もっと以前の10代の頃のカッコいい先人たちへの憧れと原点回帰に立ち返れる時期にきた、ということなのかも。
初めて耳にした時にはストレートな感情の吐露にびっくりしましたが、軽やかで風通しの良い明るさに満ちているのがすごく好きです。
焼け付くような痛みと焦燥に向き合っていたのであろう20年前の楽曲たちに今一度ライブを通して向き合ってきたこの一年余りの時間のことはきっと無関係じゃないよね。
そのまま駆け出すような力強さと切なさを孕んだそれは愛ではありませんに流れていくのもたまらない構成だ。
すごく好きな曲なので久しぶりに聴けて嬉しいな。この原色の絵の具が出されたカラフルなパレットみたいなビビッドな世界観、大好きです。

ご友人さん「建樹サイコー!」
我らの気持ちを正に伝えてくださった。笑

「きょうは知り合いが来てるもんでかなり緊張してるんですよ」
はにかみつつも、なんだか嬉しそう。こんなにカッコいいライブを見せてくれるだなんて、自慢の同級生だよね。

ここで「久しぶりに歌ってみたらよかった」という『say once more』で前半の締めくくり。
shadowはつくづく名盤だよね、ほんといい曲だな。

さて、ものすごくあっという間の前半パートがここで終了。セットリストやMCなどの流れはおおむね東京と同じなんだけれど、東京公演という前哨戦を経ているからこそ、切実なまでの痛みが穏やかに包み込むような優しさで覆われているように感じられました。
建樹さんがすごく繊細でお優しい方なのは作品に触れていればありありと伝わるし、だからこそご自分の気持ちに向き合ったすべてをパフォーマンスに込めることはすごく苦しくて勇気がいることだと思うんですよね。東京でのライブを成し遂げたこと、そこで大きな感性と愛でそれらを受け止めたお客さんたちが会場と画面の向こうにたくさんいたことが大きな糧になって、この素晴らしい夜が生まれたんだろうな。
そして何より、全身で感じるこの音の洪水の没頭感が半端なくて、圧倒されっぱなし!
はあ、本当にすごかった……すごかった。けど、まだこれ前半やねん。笑


胸いっぱいのワクワクに包まれながら、後半戦がスタート。
とんでもない熱気ですこしほつれた髪の毛(それもまたセクシーですてき)も整えられ、Tシャツはえんじ色にチェンジされています。
ピアノに向かい合い、優しく奏でられ始めるのは「青空」
この純度が高い煌めきに満ちた美しさと優しさ、瑞々しい音がフロアいっぱいに満ちていく感じがたまらないな。ますます増した表現力の深さと奥行きに心が飲み込まれていくみたい。
「頼りない人生の途中だけど構わず歌うよ」という高らかな決意表明が後半戦のスタートになるあたり、本当に素晴らしいセレクトだね。
そのまま流れるようにdiaryへと繋がる構成も素晴らしかったな。ひとつひとつの音をすごく丁寧に優しく拾い上げていくように紡がれるピアノの音色と、自身に言い聞かせているかのように穏やかに優しく響く歌声がたまらなく瑞々しくて優しくて。


youtu.be

バンドでも聴きたいなぁ。


続いて、話題は先月亡くなられた坂本龍一さんについて。
「長く闘病されていたので覚悟はしていたけれど――音楽だけではない基礎の部分を支えてもらっていたので、かなりぐらついています」
直接関わり合いがあったわけではないから……と言及することにはためらいもおありのようでしたが、ライブに向けて準備を進める中、長らく師事していた方の訃報が届いたことはどれだけ大きな痛みや戸惑いとなったのだろう。


youtu.be

建樹さんの言葉を受けてからテレビ放送されたplaying the pianoを見た時、必死に生きようとする人の生命の輝きを感じたんですよね。
きっと帰ってくる、この人は大丈夫だと放送の際には心から信じていたし、radio sakamotoで の小山田くんと大友さんの「坂本さんに会いたい」が叶うことを信じていた。
あれがスワンソングであることをわかっていても、受け止めたくなかったというのが大きいんだと思います。


(「the fight」について)
「高校生の頃、音楽を志してすぐに自分には普通の曲が作れないことに気づいて落ち込んでいた中、すごく衝撃を受けて励まされたんですね。カセットにダビングしたものを繰り返し聞いてコピーして」

美しいのに不穏で、大胆で力強いアバンギャルドな構成のこの曲があのスタンダードナンバーの大名曲である「Merry Christmas Mr. Lawrence」が収められているのと同じアルバムに収録されていることがそもそもの衝撃だったんだろうな。
(原曲を聴いてみると、このあまりに大胆な構成とアレンジ、音の重なり合い、メロディラインに驚かされます。音楽でこんな扉を開いてしまえるんだ、という大胆な挑戦と自由さを感じる。)
(これをご自身の世界観に落とし込んで見事に弾きこなしてしまう建樹さんのすごさよ)

続いて、ご自身の曲である「目の前」について。
「ヨーロッパの魔女が出てきそうな暗い森が浮かぶようで。綺麗な曲なんだけどちょっと気持ち悪いなって」
美しさと不穏さが同居する独特の世界観は坂本龍一さんが音楽で描きだした光景にもどこかつながり合うよう。
このために施されたスリリングで張り詰めた美しさが際立つアレンジの素晴らしさと、暗闇にしずかに降りていくかのような張り詰めた美しい歌声が描き出す景色の幻想的な世界観に一気に飲み込まれてしまいそう。

続いて奏でられるのはspider〜song writer〜ヘキサムーン〜song writerの変則メドレー!
いやあ、この円熟と瑞々しい力強さの両方をやすやすとこなしてしまう圧巻のパフォーマンスのすごさをどう言葉にすればいいんだろう。
ここで歌われる自分にとっての大きな指針となってくれた「あなた」はわたしにとっては建樹さんの存在に他ならないんだけど、きょうこの場では、教授をはじめとする、礎となってくれる音楽を生み出してくれた人たちへの想いがあったんだろうな、と思わずにいられない。

とめどない熱狂でフロアを湧かせた後、話題は近頃なにかと評判のchatGPTについて。
「少し前にテレビで見たんですけど、歌詞を書いてもらっていたんですね。自分で書くと本当に何日もかかるのが、chatGPTならものの30秒くらいで結構いい歌詞を書いてくれるんです」
これだ! と文明の力に頼ろうと思ったけれど結局は登録などで頓挫してしまい、使う段階まではいかなかったとのこと。
とは言え、AIがやってくれるのは人間から指示された「命令」に基づいての情報処理からの作品の生成であり、純然たる「創作」ではないんですよね。

「chatGPTにはシチュエーションなどを細かく具体的な注文する形でオーダーすればいい、と聞いたので自分から自分に注文を出してみたところ、4曲くらい歌詞ができました」

プロットを綿密に作っておけば迷わずにサクサク書けるのと同じ仕組みですよね。
『chatGPTにはとても書けない歌詞』の新曲は新しいアルバムに収録される予定だそう。
楽しみだなぁ!

建樹さんがAIに興味を持ったそもそものきっかけは、人がどういったふうに物事を認識するのか、に関心を持っていたから、とのこと。(東京では脳科学の話が話題になりましたね)
そのことからふとご自分なりに考えたのが「瞑想や坐禅をするとスッキリする、と言われているのはなぜだろうか」ということ。
そこで建樹さんなりに出した答えは「自分の経験からつい選んでしまいがちなパターンからふいに抜け出し、パターンになりえなかった記憶にアクセスできるからではないのか」だったあたり、すごく興味深い。

「皆さんも行き詰まってるな、と思ったら是非やってみてください。僕はやったことないんですが」

ないんかーい! ってみんなつっこんだに違いない、だってここは関西だから。笑


東京で話してくださった時からなんだか不思議なエピソードだな、とは思っていたのですが、もしかすればここに込められていたのはライブという場の空気の中では、どれだけ綿密に自身の表現を磨き上げて挑んだのだとしても『パターン』から逸脱した思いがけないものが引き出されるという話だったのかな。
なんにせよ、ライブという表現の場に可能性と喜びを見出してくださっていらっしゃるようなのがすごく嬉しくてたまらないや。

続いて披露されたのが「パターンを脱したいつもとは違うイントロ」が美しくも印象的な祈り。
このところ、毎回平和を願う気持ちを込めて、と届けられていたこの曲に今回は違う視点、景色が載せられていたようで、それがまた新鮮だったなぁ。
自身の心の中を見つめればきっと、奥底には『パターン』に収まらなかった思いもよらないような記憶や経験、そこからしか描き出せない答えが眠っていて、自らを奮い立たせる力となってくれるはずなのだということ。

答えは全部心の中に、からフィナーレのpreludeへの流れが本当に完璧で美しくてたまらない。高揚感と喜びと愛が溢れているよね。音楽にはこんなに自由で優しくてあたたかい力があるんだな、と思わせてくれる。
この人に音楽があって、こんなにも音楽に愛されていて、それをこうしてありありと見せてもらえることが本当に嬉しくてたまらないや。
とても感慨深げなようすの「ありがとうございました、またライブでお会いしましょう」(この言葉が我らにどれだけの大きな喜びをくれるのかと言ったらもう!!!)とのご挨拶の後に一旦退場、まもなくアンコールへ。
新作「何座ですか?」から牡牛座の解説とピアノでのお披露目(このバージョンもカッコ良すぎるからピアノアレンジ盤もほしいなぁ)と、東京と同じ流れの後は……?
「東京では新曲をアンコールにやったんですけど、関西では別の曲をやります。きのう思いついたんですけど」
おおっ、これも「パターンからの逸脱」では!?

「あったかくなってきましたね。冬の曲をやります」

そうゆうとこありますよね、大好きですよ。笑
ここで披露されたのが「イノセント」もちろん文句なしに名曲なんだけれど、いまこの時、ここで届けられる時のさらに高められた奇跡のような輝きが本当に素晴らしかった。


youtu.be

なんとこの素晴らしいテイクがフル公開されているんです、嬉しすぎるよね。


「It's OK」の代わりにイノセントが急遽入ったこと、なにか大きな意味を感じずにいられないや。
東京のライブで少なからず感じた切実さや戸惑いや痛みがどこかしら薄れて、音楽に載せて心を解放していく喜びが満ちているライブだなぁというのをすごく感じさせてもらったのですが、東京のライブで得たものが「大丈夫」を口にしなければいけない、という切実な痛みを和らげて、新しい景色を連れてきてくれたのかな。

ここから本編最後は「新しい世界の幕開けのブルース」であるピアノでのアレンジでのB.B.Bでフィナーレへ!
跳ね回るリズムも、軽やかでのびのびとした艶のある歌声も、本当にたまらない高揚感を連れてきてくれるね。会場では軽やかにペダルを踏む足元を注目して見ていたのですが(配信に映らないから)ペダルを踏む音が収録されているのもたまらないなぁ。
アウトロでの「神戸でやれてよかった、きてくれてありがとう」の言葉の重みとあたたかさ、本当にすごく胸に迫ってきてたまらない気持ちにさせられてしまう。本当に本当に、素晴らしくてたまらなかったな。

ライブ後には本当にこの日のことが嬉しくてたまらなかったことへの感謝と喜びをお伝えして帰りました。
どことなく12月や1月の時と印象が変わって見えたのはやはりこの日にかける思いや、受け取ったものの大きさがあったからなのかな。素晴らしい時間に立ち会えて、本当に幸福でした。


僕はマッジでかっこいいしか言えなくなってしまった。笑


作品紹介のフライヤー、「Mystery」のキャッチコピーがなんなのかが気になります。
Ropeが濃縮、Emotionは発散なんだね。


神戸でライブが実現できて本当に良かったなぁ。
なんだかすごく色々と込み上げてくるものがあるし、建樹さんの充実ぶりが伝わるお言葉が本当にうれしいや。また関西でお会いできますように。

小林建樹ワンマンライブ”ふるえて眠れ”@04/22 下北沢Com.Cafe 音倉(配信)

建樹さんのワンマンは12月以来、約四ヶ月ぶり。その前には2023年の幕開けとして高橋徹也さんとのワンマンがあったことを思うと、本当にうれしい悲鳴&びっくり!!
もちろん見逃せるわけがないでしょ、こんなの嬉しすぎる♪ と、はりきって配信チケットを購入しました。
さてはて、楽しいおうちライブのはじまりはじまり。

※当然ながら全面的にネタバレを含みます、配信ライブの視聴前および、神戸のライブをまっさらな気持ちで楽しみたい方はご注意ください。


12月にもワンマンのあった音蔵さん、アットホームな雰囲気と照明や映像にもすごくこだわってくださっていていい箱だったよね、とワクワクしていたところ、赤い照明がガツッとかっこよく照らされる中、nervous colorsでスタート。これまた予想なんてつくはずもない選曲だぞ!? 
ギター一本の削ぎ落とされた音づくりでは当然ながら曲の印象は変わりますが、一曲目から声の伸びとハリが半端ないですね!? ステージを見せてもらうたびにギターと歌声が一体となって高まっていく心地よさが増していくよう。
歌われている景色はヒリヒリするように切ないものなのに、いまの力強く伸びやかな建樹さんのパフォーマンスで表現されると開放感と力強さが半端なくて、心の真ん中に真っ直ぐに届いてくるよう。ほんとうに気持ちよさそうに歌われるなぁ。
良い意味での緊張感と気迫を感じた1月よりは幾分かリラックスされてるように見えるのはやっぱりワンマンならではですよね。立て続けに、力強くギターをかき鳴らしながらより色っぽく魅せてくれるsound glider〜満月とキラーチューンが続くぞ!?
(「sound glider」を初めてライブで聞いた時あまりのカッコよさにびっくりしたんですが、まさかのヘキサムーンのカップリング!)(「花」も青空のカップリングだもんなぁ)

(前奏の合間に)
「こんばんわぁ〜、小林建樹です。よろしくお願いします」

プレーの鮮烈なカッコ良さとご挨拶のファニーなキュートさとの高低差で風邪を引くかと思ったってみなさんが前回のライブを見返すたびに笑ってたのを思い出してしまう。笑
そこも含めてまるごと魅力なんだよね。

「ありがとうございます、配信でご覧の方も会場にお越しの方もワンマンライブ『ふるえて眠れ』へようこそ」

ライブ活動を(配信から)再開してちょうど一年、応援してくださったおかげで、との言葉がすごく嬉しいね。いやいや、こちらはめいっぱい楽しませてもらっただけです!

「楽しんで行ってくださいとは言えないんですけど、楽しくないかもしれないから(笑)」

そんなことないよ! って会場に居たら言っちゃいそう、応援上映とちゃうのやで。笑


「動画を後から見たら早口だと思った」という自省があったらしく、言葉をひとつひとつ噛み締めるように丁寧に話しながら、話題は次の曲の紹介へ。

(1stアルバム収録曲『Boo Doo Loo』について)
「デビュー当時、ライブのタイトルにもなっていた特別な曲でーーサビの歌詞の部分の『夢じゃない』っていうのはオーディションに受かってレコード会社の人から連絡が来た時に『夢じゃないんだな』というのを感じて、そのまま浮かびました」

ほんとうにすごくカッコよくてゾクゾクするような男っぽい色気を感じる曲ですが、これが1stアルバムに収録されているあたりにただものではなさを感じちゃう。まさかそんな裏話があったとは。
「間奏で高校生の頃に好きだったバンドのフレーズを取り入れています、すごく難しいからうまく弾けないけれど……わからなくても、ぜんぜん大丈夫(笑)」
とはにかみながらの宣言(?)を織り交ぜて弾かれたリフはBOØWYの『Bad Feeling』だったとのこと。おー! かっこいいなと思ったらなるほど!
「ふるえて眠れ」は80〜90年代のバンドサウンドへの憧れを下地にした、との言葉どおりのアプローチがなんとライブでも見せてもらえるとは。
続いて話題は今回のタイトルにも冠された「ふるえて眠れ」へ。


youtu.be

「この曲は90年代のバンドへのオマージュを込めて作りました。最近よく聞くんです。それとは別の話で、20年くらい前に音楽映画を作りたいと思っていて。タイトルは『中央線のプレスリー』っていうんですね」

ミュージシャンにも古くから愛され、独特の文化の根付く街だという中央線沿線。建樹さんご自身も高円寺に住んでいた時期があり、そこを舞台にという気持ちが強まったそう。
気になるあらすじは、というと。

「ある時、売れないミュージシャンがヒット曲を手にします。でもその曲は彼がほんとうにやりたい曲とは違っていまして――生きているとほんとうに欲しいものが手に入ったようで入らないというアンバランスなことがあるので、そういう葛藤を映画にできたら、と思って」

20年前、というと建樹さんがメジャーから独立された時期ですよね。やはりそういった状況の変化とは無関係ではないよなぁ。
構想されていた当時には主役はオセロケッツの森山公一さん(お名前がでたタイミングでお客さんからは笑い声が。笑)恋人役には松崎ナオさんをイメージされていたようですが、もう随分時間も経ってしまったからいまではちょっと違うかなぁ、と思われているとのこと。

「いまやったら菅田将暉さんとかにやってもらったらカッコいいんちゃうかなぁって」

コントがはじまるだ!笑

物語のラスト、彼が大きな決断を胸に生放送の歌番組のマイクの前でギターをかき鳴らして歌い始めるシーンで映画は終わり、そのタイミングで流れ出すのが「ふるえて眠れ」なら、ということを曲が完成された後に思われたとのこと。
あらたに生み出した作品が過去に思い描いた景色を連れてきてくれるとは、興味深い話ですね。みなさん、映画の場面を頭に思い浮かべながら聴いてください、との言葉とともに流れるように演奏へ。
たしかにそう言われてみると青春映画のエンディングテーマのような壮大さと包み込むような優しさを感じるなぁ。
葛藤に揺らされながらそれでも前を向いて生きていこうとする主人公をそっと見守ってくれるような、あたたかでまっすぐな温もりに満ちているんだよね。

そのままギターをかき鳴らしながらのびのびと力強く歌われるのは『それは愛ではありません』!! わー、大好き!!
生々しくてヒリヒリする葛藤や焦燥が爆発力溢れるパフォーマンスを通して力強く解き放たれてる感じ、好きだなぁ。
続いて「ひどい男の歌」と紹介された『Say once more』はここまで一続きの流れを考えての構成だったのかな。夢と現実の狭間での葛藤が疾走感あふれる歌声と演奏に乗せられて歌われていて、ぐっと胸に迫ってくるよう。

後半を見てから改めて感じたのは(1月からおそらくテーマにされている)『時間の流れ』を意識した上でライブの構成を練られていて、この前半パートは若かりし日のバンドマンへの憧れ、あらゆる痛みや迷いや焦燥に足を掬われそうになった日々を優しく懐かしんでいるかのようだったなぁ、ということ。
前半のこのセットリストや合間に語られた言葉全てが『ふるえて眠れ』に込められたメッセージをありありと伝えてくださっているようで、「いまここで歌う、演奏する」ことへ込めた思いがひしひしと届くよう。
伸びやかさと力強さを増したパフォーマンスも、にこやかで優しい語り口のお喋りもほんとうに素敵すぎる。
はぁ、すごくよかった……ほんとうによかった……けどまだこれは前半なんです。笑


後半はがらりと趣を変えて、ピアノに移動。
本編に入る前の指慣らしに演奏されているのであろうフレーズのたおやかな美しさにうっとり聞きほれていれば、一曲目は昨年8月の配信ライブでラストに演奏された「青空」
澄んだ音色と歌声がすーっと空に昇っていくようで、表現に奥行きと優しさがぐっと増して聴こえてくるよう。
ほんとうに丁寧に深く、歌の世界に静かに降りていくような崇高な美しさが閉じ込められているんですよね。1から10まで〜♪のくだり、歌声も、メロディに合わせてひらりと舞う掌もたまらなく好き。
続いて、これまた久しぶりの『Diary』!
軽やかなのにどこか切なさが込み上げてくるメロディと、ますます包み込むような優しさの増した歌声の溶け合うさまがたまらないね。自分の弱さに向き合って、まるごと受け止めていこうという穏やかな決意表明が込められているよう。
ここで一息ついて、後半最初のMC。

(先月亡くなられた坂本龍一さんについて)
「いちばんわかりやすく言うと大ファンなんですね。歌ってますから、どこがって言われると思うんですが」


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一番好きな音楽家、とラジオでもおっしゃってましたもんね。
音楽性はもちろん、創作への取り組み方、考え方の面でも多大な影響を受けたとのこと。

「坂本さんはすごくノートを取られる方で、坂本さんがアルバムごとにスクラップブックを作ったり、アイデアノートを作るのをすぐに真似してーー30年くらい、僕もノートにスケッチやメモを書いていて」

何座ですか? のデジタルリーフレットに掲載されているスケッチもその一環なんだろうな。感性の引き出しを開くことが創作につながるんですね。

「(坂本さんの)ほとんどの曲が弾けるんです。ちゃんとは弾けないよ?(笑)」
(カバーのために、とセレクトされた楽曲「The fight」について)
「高校生の時に音楽で身を立てたいと思ったんだけれど、普通の曲が作れないことに気づいてーーそんな中、これだ! と思いました。こんな道を作っている人がいるんだ、この人についていこうと思いました」

憧れるあまりに学校でもずっと楽譜を写譜していてたとのこと。
思春期の建樹少年にとってそこまで大切に思える出会いがあったことがいまの音楽人生に繋がっているんですね、なんて幸福なことだろう。そこで満を持して披露されたThe fightのアバンギャルドに跳ね回るピアノのかっこよさ! たしかにこれはガツンと殴られるようなインパクトがあるぞ。
特に繋がりもない、一ファンに過ぎないからお悔やみを、と話題に出すのも恐れ多い――といったご様子でしたが、音楽家への道を、創作のための道筋を切り開いてくれた本当に大切な存在だったからこそ言葉にせずにはいられなかったし、思いを表現する手段は音楽のほかになかったんだろうな。

闘病とともに社会活動も行われ、きっと大変だったろうからゆっくり休まれていてほしい、と追悼の意を表してくださったあとは、ご自身の楽曲へ。
ここで披露されたのがなんと、目の前!

(「目の前」の楽曲世界について)
「家で歌っていると、眼前にヨーロッパの魔女がいるような暗い森のイメージが浮かびました」

言葉通りに、心の中にだけある緑深い森の中をゆっくりと歩んでいるような不思議な世界観が浮かぶよう。
何より特筆すべきは今回のために施されたのであろう、曲の世界を改めて浮き彫りにしていくかのような大胆なアレンジ! どこまでも冴え渡るような美しい旋律に乗せて、心の中の暗闇に静かに降りていくかのような歌声の張り詰めた穏やかな美しさたるや。
ここでのピアノの音の響かせ方は、教授の影響を色濃く感じさせるよう。あなたから受け継いだものをこうして血肉としていますよ、という天に向けたメッセージのように個人的には感じられました。
そのまま、流れるように跳ね回るピアノのリズムと旋律は「spider」へ。
ほんとうに何度聴いてもびっくりするほどかっこいい、どうしてここまでたったひとりで豊かで力強いグルーヴを生み出してしまうのか、と圧倒されていれば流れるままに「song writer」へ。
えっ、ちょっと待ってくれどうなってるんだ唖然とさせられるほかないぞ!? と思っていたところ、リズミカルに弾む鍵盤はお馴染みキラーチューン「ヘキサムーン」を奏で、そこからまた「song writer」へと戻る変則メドレーを奏で出す!

……ちょっと待って、我らは一体何を見せられているの!?笑
いやはや、この人は一体どこまで高みへと上り詰めていくのだろう。
あまりの鮮やかさに画面の前で唖然とする中、小休止のMCへ。話題の中心はこのところ凝っていらっしゃるという図書館通いについて。

「最近面白かった本の内容なんですけど、人間には無意識やトラウマというものがないというもので」

なんでも、AIの研究者が脳についての調査を行ったところ、人間の脳はひとつの情報について解析する際、データベースにある無数の情報を瞬時に引き出してくるが、その際には無意識やトラウマを持ち出す余地は「残念ながらないのだ」ということが書かれていたとのこと。
(「私(著者)も受け入れるのに数年かかった」そうです。笑)
ほんまかいな!? って言いたくなっちゃうような驚きの事実だぞ。
建樹さんがそういった脳科学の分野に興味を持たれたきっかけは、ひとりの作り手として、自分の作品をどんなふうに受け止められるのかという認識のメカニズムにこの10年ほど興味があったから、とのこと。
(そこで脳科学に視点がいくのがユニークですよね、豊かな好奇心と知識欲の表れなんだろうなぁ)

続いて話題は瞑想について。

「自分は瞑想とかはしないけれど……なんで瞑想をするとスッキリするのかを考えてみたんだけれど、集中していくうちに人間が持つ雑念が次第に取り払われて、いままでの経験から身に就いた思考のパターンから抜け出すことができるからじゃないかな、と思って」
「自分では見つけた時に『やったあ!』と思ったんだけれど……あんまりかな?(笑)」

話題がちょっと観念的な領域に踏み込んできたから、みんなたちにはついていくのがすこし難しかったのかもしれない。笑(配信でじっくり聞かせてもらっているのと、会場とではまた空気が違ったのかもですね)
建樹さんの楽曲は(1月に対バンされた高橋さんが楽曲を通して、映画や小説の一場面として切り取られたような「枠線のない風景」をありありと描き出す作品が多いのとは対照的に)、どこかしら捉えどころのない心の中の景色を見せてくれるよね、というのはお友達とも話していたのですが、壮大なイマジネーションの源泉にあるもののほんの一部についてこうして我等に噛み砕いて伝えようとしてくださっていたのかも。
なんだかすごく新鮮で貴重な時間を過ごさせてもらったような気分。

興味深いMCを受け、「きょうはちょっとだけパターンから逸脱させます」と、ドラマチックなイントロから流れるように「祈り」へ。答えは全部心の中に――というずっと歌い継がれてきた大切なフレーズは前段のお話とも見事につながっていることなんですよね。
やがて本編最後の楽曲、『prelude』へ。いやはや、これはあまりに完璧なエンドロール!
わたしは『ふるえて眠れ』の発表後に電車の中で『prelude』を改めて聴いた時、あらゆる痛みも迷いも苦しみも、なにもかもがかけがえのない財産だからこそいま一度向き合い、「新しい扉」を開いて前に進んでいくんだ、という優しい決意表明があらためて胸に迫ってきてポロポロ泣いてしまったことがあるのですが、あの時とおなじ気持ちがいまこの瞬間にも見えてくるよう。
これこそが建樹さんが開いた「新しい扉」の向こう側の風景で、それはこんなにも色鮮やかで軽やかで煌めきに満ちているんだ、ということがひしひしと伝わってくるようで、うれしくてたまらない。


本編終了後、まもなくアンコールへ。

(星座のアルバム、「何座ですか?」について)
「歌っていないから、ものすごく勇気がいって」
実験的かつドラマチックな音楽の冒険が楽しめる一枚ですが、『シンガーソングライター』の枠組みを破ることに関しては大きな決意もあったんだろうなぁ。

(「牡牛座」について)
「牡牛座は流行に敏感なイメージなので、椎名林檎さんの『丸の内サディスティック』のコード進行を取り入れて曲を作るのが流行っていて」

あ、言われてみると本当にそうだ! まさかの裏話ですね。
ラジオでもしばしば実演を交えて楽曲の裏話を聞かせてくださいますが、こうして生で聞かせてもらえるとはなんと贅沢な時間だろう。
やがて話題は製作中のアルバムからの新曲、『It's OK』について

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「この曲は自分よりも若い世代へと向けた曲になっています。大丈夫って言ってあげたい、言ってほしいという気持ちを込めました」

ここまでの素晴らしい時間の積み重ねがあるからこそ、楽曲に閉じ込められたメッセージのまっすぐな優しさがより一層心に響いてくるね。
ここで思い出さずにいられないのは、1月のライブでお話ししてくださった「2023年の音楽の姿勢」についてのエピソード。

「去年くらい今年にかけて、音楽をやっていく上での姿勢――気持ちの持ちようを、明るい感じでやっていこうと決めていたんです。もともとそんなに陽気ではないけれど明るくもない……普通くらいなんだけれど、頑張って明るくしようと思って。そのくらい明るくやっていかないと、世の中がそのくらい暗いムードの中にいるから普通に暗くやっちゃうと埋もれてしまう感じがして」

詳しくはこちらでどうぞ。
love-lylic.hatenablog.com


ライブを見終えて感じたのは、『ふるえて眠れ』『It's OK』がそれぞれに視点を違えながら伝えてくれるメッセージはこの言葉どおりのものだなあということ。
「明るくやっていく」という言葉の裏にあったのは「不都合な悲しみや戸惑いや息苦しさから目を逸らすことではない、何もかもを自分にとってかけがえのない時間と経験だったことを受け止めて前に進んでいけばきっと大丈夫だから」というあたたかいエールだったこと、それらをライブという形でこうして我らに手渡してくれたのかもしれない。
『Mystery』で開かれた鮮やかで優しい景色のさらに一歩先の「いま」なんだよね、ここにあるのは。

軽やかに弾むピアノの音色にのせて、「新しい世界の幕開けのブルース♪」であるB.B.Bで締め括られたのにも、なにか深い思いを感じずにいられない。
その時々で伝えたいこと、表現したいことに真摯に向き合い、表現をより磨き抜いてこられたことを伝えてくださるからこそライブのたびに新鮮な気持ちにさせてくれる、改めてほんとうに大好きだな、と思わせてくれるのが建樹さんのライブですが、今回もその気持ちは変わらず。
いま見つめているもの、届けたい思いや景色があることをこうしてわたしたちに手渡す手段としてライブを選んでくださったことがほんとうにほんとうに嬉しかったです。
こんなにも嬉しくて優しくて煌めきに満ちているのに、閉じ込められているメッセージはひたすらに真摯で、戸惑いや痛みをありのままに包み込んでくれるようで、画面越しでもポロッポロ泣いてしまったので会場にいたらきっと大変なことになっていたに違いない。笑
素晴らしい時間を本当にありがとうございました、引き続き期限ギリギリまで噛み締めようと思います。


一時期は人前で歌うことが苦手、緊張するとおっしゃっていた方がパフォーマンスに前向きになってくださっているのが本当に嬉しい。
画面の前から、客席から、すこしでも力になれるようなエールを送ることが出来ているのならいいなぁ。

さて、こんなにも胸がいっぱいなのになんと神戸のライブが控えている!もちろん会場に行く予定だけれど、なんと配信も二週間観られるんです!

うれしいな、うれしいな。
今度はどんな景色が見られるのかな、心から楽しみです。

高野寛@2023/04/08 坂ノ上音楽祭2023

「今年はこの4カ月の間に本当にいろいろなことがあって」 
ライブの終盤、あくまでも軽やかに告げられた言葉に、その場の空気がやわらかに揺らいだ。 
人生には限りがあり、避けようのない別れは本当にある日突然訪れる。それでも交し合った思いは、芸術は残り続ける。思いを託した音色を、歌を解き放てばきっと「空の上では誰かが聞いている」 
30分あまりの時間には、あまりにも濃密な音楽の力でしか成しえない喜び優しさが溢れていた。



写真を撮りそびれてこれしかないの、残念。わたしとこの女の子、髪型がおんなじなんです。(こんなかわいくないけど!笑)ちょっとうれしい。


坂ノ上音楽祭は今年から始まった、天王寺公園芝生広場で開催のなんと入場フリー! のハッピーでピースフルな音楽フェスティバル。 
14時半ごろ、ゆるゆるとたどり着いた会場は芝生広場にレジャーシートを敷いてくつろぐ人、飲食ブースのおいしそうなごちそうとクラフトビールに舌鼓を打ちながらピクニックを楽しむ人、もちろんノリノリで音楽に夢中になる人たちでいっぱい! お子さんやワンちゃんをお連れの方もたくさんいらっしゃるのが自由な雰囲気でいいなぁ。

前日からの激しい雨も止み、途中で通り雨に見舞われたという会場はすこし肌寒いけれど陽射しはそれほど強くもなく、見上げれば心地よい青空が広がっています。ビル群に囲まれ、ステージの向こう側には通天閣が見える。都会の真ん中に音楽がやわらかく響くこのシチュエーション、気持ちいいねえ。 
special othersの極上のパフォーマンスが会場中を熱狂させた後、ゆるゆると前方スタンディングエリアへと入場。幕間時間のスタッフさんたちのセンスの良い選曲を存分に楽しんでいたところ、BGMのクラムボンラッシュライフ」が途切れ、アコギを携えた高野さんがセッティングのためにステージに登場! この思いがけないサプライズにはスタンバイ中の聴衆もみなびっくり! 
そのまま流れるように始まったのはお久しぶりの「500マイル」途中、PAさんへの音響指示などを交えながら(なにせこれは公開リハーサルなので)、流れるように次の曲へ。(ごめんなさい、二曲目のタイトルを失念したので分かる方は教えて。笑) 

「これは練習です、あくまでも練習です。本番は15時半からです(笑)」 

なのにフルコーラス歌ってくれる! ライブじゃん!笑 

なんと3曲目、「恋は桃色」! みながうっとりと聞き惚れ、本番がますます待ちきれなくてたまらない! 豪華すぎる公開リハーサルの後に流れ出したのは中村一義キャノンボール」わぁお、スタッフさんの粋な計らいだね、うれしいなぁ。 



豪華すぎる『練習』の興奮も冷めやらぬまま、固唾をのんで見守る皆の前にアコギを抱えた高野さんが予定時間に登場。 
大阪芸大に通っていたので、いつも乗り換えで天王寺の駅を利用していました。きょうはまるで不思議な時間旅行をしているようです」 
「ITの世界では時間の流れ方の速さをDog yearと呼ぶと聞いて、面白いなぁと思って作りました」

一曲目はライブではお馴染み、「Dog year,Good Year」  
この優しいのにとびっきり切なくてあたたかい世界観、本当に大好きだ。高野さんのまなざしはいつでも穏やかであたたかで、悲しみや痛みをやわらかに包み込んでくれるんだよね。天王寺の街が随分様変わりしたことを踏まえての、『時の流れ』を意識してのセレクトだったんだよね、きっと。 
一抹の寂しさや悲しさを包み込むような楽曲を鳴らしながらも、ステージの上の高野さんはとにかく笑顔でいっぱいで、心地よさが溢れているのがなんだか見ていてとても嬉しくなるばかり。二曲目にセレクトされたのは、春のうららかな昼下がりにぴったりの「風をあつめて」 
何度聴いても、誰が歌ってもエバーグリーンな名曲がここにあるんだな、と改めて思い知らされるよう。 
軽やかに風に乗り、空に溶けていく歌声と高野さんの心の底からの軽やかな優しい笑顔にみながうっとりしていればステージの高野さんからは「すごく気持ちいい、最高だね」の一言。こんなに嬉しそうでキラキラしている高野さんに出会えて、わたしたちもすごくすごくうれしい! 

続いて披露されたのは、このところのライブでたびたび聴けた「エーテルダンス」 
オリジナルももちろん素晴らしいんだけれど、いまの高野さんの表現で送り出された時に感じられる表現の奥行の深さに何度聴いても驚かされるし、感動させられるんですよね。若き芸術家の追い求めた苦悩や模索の日々はいまも尚続いていて、美しい夢を追い求め続けているのだということが瑞々しくもやわらかに鳴らされていて何度も心を動かしてくれる。

三曲目に選ばれたのは「道標」 
すごく軽やかで明るく、あたたかな風が吹き抜けていくようなすがすがしい心地よさであふれている楽曲なのに、ここで描かれている景色は『待ちわびた春』に君との別れの痛みに向き合っている『僕』を歌っているんですよね。 
これはもう……今年が始まってから立て続けに起こったありとあらゆるお別れを重ね合わさずにはいられない。それでもここには溢れんばかりの明るく優しい笑顔と歌声が広がっていて、悲しみに立ち尽くすような悲壮感はどこにもないのだからこちらもただこの心地よさに身をゆだねているほかないのです。高野さんはなんて強くて朗らかで優しい人なんだろう。音楽にはここまで眩しいほどの強さがあるんだね。 

「きょうは途中で雨が降って――雨上がりの虹が見れるかと思ったけど、見れなかったね」 

それならば音楽でこの青空に虹をかけて見せよう、と言わんばかりに満を持して軽やかに鳴らされたのが、「虹の都へ」 
あまりの軽やかなあたたかさ心地よさにずっとニコニコ身をゆだねていたわたし、ここへ来てこらえきれずにぽろぽろ涙が出てしまう。 
ものすごくキラキラした極上のポップスなんだけれど、一貫して楽曲の中で描かれる景色はひどくナイーブな青年が自らに向き合いながら見えない壁を乗り越えていこうとするひたむきさなんですよね。 
わたしはサビ前の「何を信じたら~」のくだりからの一連のフレーズがすごく大好きなんですが、夢中で聴いているうちにここから一気に涙がこぼれてしまった。自分ひとりの力ではどうすることも出来ない迷いや不安や痛みでこの世界は溢れていて、傷つくことはどうしても避けられない。それでも自分の中には揺らがない信念があるはずだから、それを忘れずにいれば乗り越えていける。たくさんの時間と経験を積み重ねてきた高野さんがいまこうして歌ってくれるからこそ、より一層胸に迫るものがあるんだよね、きっと。 
痛みから目を逸らさずにまっすぐに前を向いて生きていこう、と歌う高野さんの力強くて優しい歌声と笑顔は、胸に迫る痛みを、いくら拭っても滲んでしまう涙をかき消してくれるあたたかさにあふれている。続いて、激動の流れの中に飲み込まれそうになっても歌を、声をあげて届けようとすることをやめない、と力強く軽やかに思いを届けてくれる「ベステンダンク」の後、すこし趣を変えたMCが。

「今年はこの4カ月、本当にたくさんのことがあって――舞台監督に無理を言って、予定していた曲を急遽変更してもらいました。坂本龍一さんにプロデュースしてもらった楽曲です。この曲はコーラスのパートがあるので一緒にうたってください」 


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(たくさんのお別れと「いま」の自分が直面していることに改めて向き合えたからこそ、この発言があり、あのステージが実現したんだよね、きっと)

コロナ禍から三年、まだまだウイルスの猛威は収まっていないとは言え、ステージ前に満員のお客さんが集まり、皆が声を合わせて共に歌を口ずさむ、とい光景は長い時間をかけてようやく取り戻した風景なんですよね。言わずともがな、この曲もほんとうに大好きなんですが、ここで歌われているのは人生には避けようのない痛みや悲しみや戸惑いは溢れていて、それでもたくさんの出会いが、そこで得られる喜びが豊かな思いを運んできてくれるのだということ。奇跡のようなあたたかさを胸に、わたしたちは前に進んでいけばいいのだということ。 
ロマンチックなラブソングとして聞くことだってできるのだけれど、永遠のお別れとなってしまった『君』が手渡してくれた大切な宝物を胸にこれからも歌い続けていくから、という優しいはなむけのようにも聞こえてしまう。 
歌はこんなにも生きることへのまっすぐな信念を、優しさを、戸惑いや痛みや悲しみを優しく包み込んで前へと進むための力をくれる。言葉で直接触れることは最小限でも、楽曲を通してわたしたちはこんなにもあざやかなメッセージを受け取ることが出来るのだということがあの時間には溢れていました。 
(一言も直接触れることはないまま、固唾をのむように見守る我らの前で音楽だけで思いを届けてくれた1月の東京のライブとはすこしだけ変わったな、というのは感じました。『待ちわびた春』がやってきたいま、あらたな気持ちで向き合おうという思いがあったのかな)


このセッションがほんとうに素晴らしいんだよね。たったふたりで鳴らしているだなんてとても信じられないほどの色鮮やかな豊かな音色と、まるで人生讃歌のような深みを持ったこの楽曲世界。 



一生懸命我慢しようとしてもとめどなく涙がにじんでしまう中(瞼が痛くなるから止まってほしいのに。笑)、ライブ中に「物販でライブ会場と通販限定のライブ盤を売ります」とアナウンスがあったため、終演後は長蛇の列に並ぶことに。どうしても涙がにじんでジンジンして来る中、テントからは「売り切れました」のアナウンスが。 
そりゃああんなに素晴らしいライブ見せられちゃったら仕方ないよねえ。きっと初めて見に来た人だって魅せられちゃったに違いないよ。握手だけは対応します、とのことだったため、「素晴らしい時間をありがとうございました」とお伝えして会場を後にしました。 
今年はまたたくさん高野さんの音楽に出会えるといいな。ひとまずは来月のナタリーワイズがすごく楽しみです! うれしいなぁ、ほんとうに。




終演後、すれ違ったお客さんたちが「隣の人が泣いてた」(そりゃあ泣くよ~!)「漣さんも言ってたけど、簡単に言葉になんて出来ないんだろうね。みんなの前で言葉にしたら泣いちゃってうまく言えないのかもしれないしね」「坂本さんって口にした時、すこし涙声になってたよね」と、感慨深げにぽつりぽつりと話されていたのが印象的でした。 
本当にたくさんの人たちが素晴らしい時間に夢中になっていて、空の上にあたたかな歌にくるまれた愛がしずかに昇っていくかのような幸福な時間だったな。きっとみんな、簡単な言葉でなんて言い表せないほどに傷ついていて、寂しくて、悲しい。 
それでも、すこしずつ色も形も違う思いを持ちよりあったわたしたちがこうして一堂に集えるあたたかくて心地よい場所があり、音楽に夢中でいられるこんな時間は悲しみを乗り越えるための喜びを、かけがえのない愛を惜しみなく与えてくれる。


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芸術は長く、人生は短し


生前の教授が胸に抱いていたのだというメッセージへのひとつの答えがあの30分あまりの時間だったのだと思います。 
わたしたちは短い人生を、それでも夢中で生きている。あなたがたが残してくれた芸術を、魂を語り継ぎながら。しみじみとあらゆる思いをかみしめながら、2023年の春はこうして過ぎていく。