午前三時の音楽

ライブの感想などを書いています

2024 小林建樹ワンマンライブ”25周年、一緒に楽しみましょう!”@2024年2月23日 神戸Always


人生の半分近くの時間、四半世紀に及ぶ音楽家としての歩みを辿り、現在地を見据えながらその先に続く〝希望〟のありかを示してくれるようなライブは、ライブ活動を再開してからの二年あまりの中で培ってきた集大成のようなパフォーマンスに思えた。
配信での参加、現地での参加という形でそのほとんどのパフォーマンスを見続けられてきたこと、だからこそ感じ取れるものがたくさんあったことはとても幸福なことだな、と心からそう思います。


記念すべき25周年の節目の記念に行われたライブは今回もまた、東京と、昨年に引き続いての生まれ故郷である神戸で開催!
ライブは生物なので見逃せやしない……けれども、折角の25周年ライブにはどんな曲がどういった流れで演奏されるのかを知らないまま、まっさらな気持ちで体験したい。というわけで、今回は配信を申し込むのをぐっとこらえて当日を迎えることに。

おおよそ男女比は半々、といったところのびっしり埋まった会場に、定刻の18時半過ぎに建樹さんが登場。
オープニングに選ばれた楽曲は「Window」
ご自身のレーベルからの再出発のアルバムを飾る表題作は、いつ聞いても清々しく軽やかでありながら力強く、瑞々しい美しさに満ちている。
この力強い決意表明はまさにオープニングに相応しいな、と聴き惚れていれば続けざまに演奏されたのは「カナリア」! えっ、これは個人的にはすごくびっくり!
長らく音源化されてこなかった、古くからのファンの方にとっては非常に思い出深いものであるはずのこの曲が選ばれたのはきっと、「いまこの時」の気持ちが重なり合ったからこそなのだろうか、と思わずにはいられない。
力強く情熱的でありながら、ひりひりと鮮やかな痛みが胸に迫ってくる歌の世界とザクザクと切り込むようなギターの演奏によるドライブ感がすごく心地よくて本当にかっこいい。建樹さんのギター弾き語りには心の琴線をかき鳴らしているかのような色鮮やかな景色が閉じこめられていて、ほかの誰の演奏でも体験できない特別な出会いがあるよね。
流れるような矢継ぎ早のメドレー(毎回思うことですが、曲と曲のつなぎ方が天才的!)はしょっぱなから名曲「満月」のイントロへ。わぁ、興奮しすぎて息をつく暇がない!笑
たったひとりでの歌と演奏という最小単位までそぎ落とされたパフォーマンスかつ、一曲の中で驚くほどに多種多様な音色が鳴り響く特徴的なアレンジがそぎ落とされた状態でこれだけ聴かせる力があるんだから、本当に驚くべきほどの実力の持ち主でいらっしゃる。
ライブでこうして生で歌うにあたって思い切って原曲からキーを落とした、というエピソードは以前にもありましたが、声の魅力が一切衰え知らずなんですよね。
年代によって歌声が変化していくこともボーカリストの魅力のひとつでありますが、生まれ持った〝声〟の持ち味、その響かせ方が最初から完成されていて、そこに益々奥深い輝きを増した進化を遂げているのがいまの建樹さんなんだよね。
音源でのいまよりもすこし細くて繊細な危うさと焦燥感が剥き出しの世界観もたまらなくすてきなんですが、いまではそこに一本芯の通った力強さや艶のようなものを感じます。
あらたな境地で表現を磨き抜いてきたことをこうしてその都度最新のパフォーマンスを通して教えてくれるから、驚きと喜びで目が離せなくなってしまう。
いやあしょっぱなからこんなにも素晴らしい演奏を見せてくれてどうしよう!? と興奮と感動で胸がいっぱいになっていたところ、ここで最初のMCが。

「27歳でデビューしてから25年経ちました。大体みなさんもその前後の世代だと思いますが、みなさんの25年の時間を思いだしながら聞いていただければと思います」

続いて選ばれたのは先ほど演奏された「満月」のカップリングだったという「JUNK」
おお、カップリングまで網羅できていないので初めて聞かせていただきましたがこれはまた隠れたものすごい名曲だ!(sound gliderと花がカップリングだったと聞いた時には椅子から転げ落ちるかと思ったことを思い出しました。笑)このヒリヒリと切実に胸に迫るかのような景色は当時の建樹さんの感受性だからこそ描き出すことの出来た光景だよね。
〝25年間〟の中で引き出しの奥にしまっていた思いや、積み重ねてきた時間の中で培ってきたものがぎゅっと凝縮されたよう。
思わず固唾を呑んで見守るかのような心地のまま、流れるように演奏されたのが「最初のメロディ」
いや、この流れは予想できるはずもないよ。個人的な前半のハイライトがここだったなぁ。
ここで思い起こしたのは、先日のラジオ番組での25年を振り返るトークの中でベストアルバム「Blue Note」のオープニングナンバーである「replay」に触れた際のエピソード。

「挫折の味を知ってるかいという歌詞で始まるんですが……僕はこの時、歌詞にあるように挫折をしまして」

楽曲で描かれているあまりにストレートな感情の吐露は勿論、その時の心境の苦しさについて〝いま〟の建樹さんがやわらかく穏やかな語り口で話してくださったことにすごくびっくりしました。
楽家人生を振り返る上では避けて通ることの出来なかったターニングポイントだったから、というのは勿論だけれど、こうして長い時を経てきたからこそ、楽曲に閉じこめるほかなかった切実なまでの感情について自身の言葉で触れることが出来るようになったのかもしれないよね。
ただ、このアルバムには〝いまこの時〟のありのままの心境を映し出したかのような「replay」と対になるかのように、最後に収録された〝ここから始まる景色〟を高らかに優しく描いていくもうひとつの新曲が収録されています。
それがこの「最初のメロディ」なわけです。

ピアノとギター、どちらのアレンジでも聞いてきた曲ですが、本当に演奏されるたびに色鮮やかで優しい景色の中に〝いま〟にしか宿せない色が見えて、それは〝この時〟の思いを込めて、目の前に・画面越しにいる人たちにご自分の表現を届けようというまっすぐな思いやりと優しさがあるからこそなんだと思います。
ものすごく胸がいっぱいで泣きたくなってしまうのに、間近でこの音楽を全身で浴びる喜びが勝っちゃうんだよね。(後で配信を見ながら改めて泣きました)

チューニングタイムの小休止の後は25周年にちなんだMC。ここで話題になったのはデビューの際の初めてのPV撮影での裏話。
99年の1月のものすごく寒い日、小さな公園で不慣れな撮影を丸一日がんばったところ……?
「撮影が終わったタイミングで女の子が寄ってきて、サインくれっていうんです」
なぜデビューもしていない自分に? 撮影を見ていてファンになってくれたのかな?? 不思議に思いながらも応じたところ、どうやらどなたかと人違いをされていた(?)ようで……。
「すごく怪訝そうな顔で『シンゴくんはまだですか?』って言われたんですけど……誰やったんでしょうねえ?」

わたしは関ジャニエイトの村上信五さんと人違いされたのでは? と思っています。笑
おふたりとも精悍なスっとしたお顔立ちでどことなく雰囲気に通じるところがある気がするんだよなぁ。さて、真相はどうなんだ!笑

謎を振りまきながらの(笑)25年目の「sweet rendezvous」の蠱惑的でスリリングな世界(何度聞いてもびっくりするような大胆なデビュー曲ですよね。わかりやすい〝新人〟特有の爽やかさやきらきら感とは対極のミステリアスでゾクゾクするようなこの色気!)をそのまま引き継ぐように「魔術師」へとなだれ込んでいく構成が素晴らしすぎた。
好奇心旺盛で貪欲な、無限の探求心の持ち主である音楽の「魔術師」の手腕はデビュー時から既に完成されていたんだな。
月日を経たことで目に映る、届けたいと思う世界や視点が変化しているさまを見せてくれるところもたまらないや。

駆けめぐるあまたの感情にただ夢中でいれば、前半最後に選ばれたのは「トモダチDays」
ワァ! まったく予想していなかった楽曲だからよりいっそう嬉しい!
ここで歌われる〝トモダチ〟は特定の誰かではなく、いままでの建樹さんの人生に寄り添ってくれた沢山の出会いを託した想像上の〝トモダチ〟なのではと思うのですが、きっとその中には我々ファンの存在もいくらかはあるのでは、と思ってもいいよね。きっと。まっすぐ心の真ん中に届けてくれるような演奏と歌声の奥行きの深さと優しさがたまらなく心地良かった。
個人的な前半戦ハイライトだった「最初のメロディ」の後、どんどん演奏と歌に磨きがかかってひとつのライブの中でさらなる進化と成長を遂げているさまをこうして見届けさせてもらっているようで、本当に心からジーンとしてしまいました。
わたしはなんて素晴らしいステージを見せてもらっているんだろう。
ライブという形で楽曲の中に閉じこめられた思いがこんなにも瑞々しくあざやかにあふれ出して、新しい扉を開いてくれる瞬間があるんだ。それもこれもきっと、建樹さんがそれだけの深い愛情で「窓を開けて」向き合ってくださっているからに違いないよね。
止めどない感慨に耽りながら、ここからはまだまだ見逃せない後半戦です!



小休止を挟み、黒のTシャツから白にチェンジされての後半戦。
「ずっとフュージョンがかかっていましたね、神戸はフュージョンが似合いますね」
生まれ故郷である神戸のジャズにこだわったライブハウスは下北沢の音蔵さんと同じく、新しく出会えた関西の拠点としてすごく気に入ってらっしゃるんだろうなぁいい出会いがあってよかったよね。
配信に力を入れた箱で、いまでは珍しくなってしまった配信ライブを続けて下さることも本当にうれしいや。全国各地にファンはいて、そうそうみんなが会場にいけるわけではないものね。

グランドピアノに移られ、恒例となった指慣らしの演奏に続いて披露されたのは「アンブレラ」
おお、ピアノ弾き語りで演奏されるとより一層洗練された音の世界に磨きがかかって、深く澄みきった歌声との相乗効果がたまらなく美しい。
ギターパートで多用されるフェイクやポエトリーやラップ調の言葉を矢継ぎ早にテンポよくたたき込むような歌唱はご本人も度々言及されている佐野元春さんからの影響もあるかと思うのですが、音づくりが本当に洗練されているよね。やりきれない歌詞の世界とシンクロしあうかのような歌声に滲む切なさと弾むような畳みかけるようなテンポでつま弾かれるピアノの音色の心地よさは極上の輝きが満ちている。
ものすごく純度の高いきらめきを放てるようにと、磨き上げられてきたものに深く感じ入ります。
続いて演奏されたのは「イノセント」! わぁこれは!!! 反則!!!
原曲に閉じこめられたピュアでまばゆいほどの、繊細で危うい青年の〝イノセント〟の結晶のような世界が楽曲と共に長い時間を生きて、痛みや迷いに寄り添いながら歩んできたその先に見えた景色を思いながらいまこうして演奏してくださっていることがありありと伝わってくるんですよね。
こうして現在と過去が地続きに演奏されることで、より一層と積み重ねてきたものの美しさが感じられるなぁ。

続いてのMCは曲のキーによって与える印象の話。
「キーがDの曲は明るい曲が多いと言われているんですが、Dの曲は確かにそういった曲が多いんですね」
音楽に対する探求は引き続きライフワークとなっているご様子だと思っていいのかな。その成果をこうして毎回我らに実演を伴いながら見せてくださるのだから、うれしいよね。
自分の曲からもDの曲を、とここで披露されたのはセカンドアルバム「Rare」から「ANTNIO」~「Rare」
おお、すごく意外かつうれしい選曲だ!
ここでまたもや思い出したのは先日のラジオでの「Rare」発売時のエピソード

「ファーストの時には時間もたっぷりあってじっくり制作が出来てすごく楽しかったんですが、この時にはすごくめまぐるしい状況に追い込まれていて……解決出来ない悩みに追われて、思うように声が出なかったりする時でもスタジオを抑えている日にはレコーディングをしないといけなくなって」

楽曲を聞いているとすごく繊細で内向的な人なんだろうなっていうのはおのずと伝わるよね、特に20代の頃の楽曲はヒリついた焦燥感や閉息感が露わだよね、というお話を開演前にもしていたのですが、改めて聞いてみても、生々しいほどの息苦しさと葛藤を驚くほどの軽やかさで楽曲の中に落とし込んでいることにびっくりさせられます。

〝表現〟は往々にして実生活の中では容易く他者と分かち合うことの出来ない・表出させることのない感情を預ける場所としての機能があるからこそ、作品の中に落とし込んだ痛みや戸惑いに実生活を生きている生身の自身の言葉で言及することには少なからずの痛みや戸惑いを伴うものだと思うのですが、自身の言葉やそこに込めた思いに真摯に寄り添ってくれる・受け取ってくれる人がいるという安心や信頼があるからこそ、非常にデリケートなものであるはずの当時の心境についてもご自身から語られるようになったのだろうか、などと思ったり。
〝作品〟に落とし込んだ自身の核となるような危うくてむき出しな領域と表向きのコミュニケーションの中で表出させる感情や振る舞いのバランスを取ることはすごく難しいことではないだろうかと思うのですが、25年の道のりを歩んできた中でたどり着いた〝いま〟はその内と外とのバランスが程良く整った状態なのかもしれないね。
「突き抜けたような明るさがあるなと思った」とはご本人の弁ですが、歌詞の世界には内政的な息苦しさが閉じこめられているのに、すっと光が差してくるような開放感が心地よさをくれるんですよね。
その一見アンバランスな危うい美しさが建樹さんの音楽のもつ魅力なんだよなぁと改めて思わされます。
やがて話題は何かと気になる体調のことへ。
「あんまりするのもどうかなぁと思ったんですが……身近でいいかなぁと思ったので」
ネガティブなことや自分の弱さや迷いについて、作品の外で触れることにためらいながらも〝打ち明ける〟ことをあえて選ぶようになられたのが最近の建樹さんのモードなんだな、というのが慎重に言葉を選びながらのお話からも感じられますね。

深夜にYouTubeのショート動画で関西の男の子が食べ歩きをするグルメ動画を二・三時間見てしまう、という建樹さん。
「イヤなことがあったので戦います! って言ってラーメンとか餃子とか丼物をわーっとたくさん食べるんですね。わぁ、いいなぁって思って」
自分ではもうそんなに沢山食べられないから「いいなぁ」と思ってしまうとのこと。ちょっと切ないね。笑

「実は去年ちょっと健康診断に引っかかってしまい……呼び出されていろいろと指導を受けまして」
去年のライブの前に病に臥せっていて――と発言があったのは関連してのことだったのかな。いや、早めの発見でよかったよう~。
製作期間は座りっぱなしで根を詰める作業にどうしてもなってしまうからクリエイターと健康上のリスクは避けては通れないものですよね。

やがて話題は新作に収録された「キミ晴、語る」について。
AIが説法をする、という不可思議な世界観とロボット風の歌唱が相まった楽曲の歌詞が漢字とカタカナだけで綴られている理由は、昨年武道館の側にある日本資料館に行ったことがきっかけになったのだということ。
「日本の中心のような場所で……この世の感じがしない、すごく違和感を感じる世界なんですね」
神秘的なものに惹かれる、という建樹さんならではの感性が感じられるコメントだ。

「展示された資料はみんな漢字とカタカナで表記されていて、いいなと思ったんです」
現代の技術であるAIと明治政府の公式文書での表記を出会わせるとは、ユニークな発想だね。
ここで、東京ではあまりしなかったという歌詞の解説が実演を交えて披露。(これは両公演に参加ファンにもうれしいサプライズですね!)

「『拝金主義ニ乗リ出シタ人情店ノムーブ』という歌詞なんですけど、これは人情だけでやっていたお店がしまってしまうのは切ないな、もっと値段をあげてくれてもいいのにという気持ちで書きました」
お金の話をするのはタブー、ナンセンス、という価値観もありますが、『持続可能な暮らし』のためには避けては通れないものだもんね。批判ではなく寄り添いの言葉である、と明言してくれるところに優しさを感じるや。
この曲に限らずのことですが、音源ならではの歌唱方法やアレンジが施された楽曲たちが生の演奏になるとこういったアプローチで演奏されるんだ! という新鮮な驚きがあるよね。
そして「これ」が生演奏の完成では決してなく、絶えず試行錯誤と実験を繰り返しながらの最新のチューニングが施されて、楽曲のもつ可能性を広げていく新鮮な「体験」として届けてもらえるんだよね。
さて、最新の楽曲からぐるりと時間軸を遡って過去へと降りて演奏されるのはファンクラブ限定楽曲だったという「生存本能」(!)いやあ、ものすごくいい曲な上にまったく古びることのないみずみずしさを纏っていてびっくりさせられるんですが!?
このところ話題になる若手の音楽家の方の作品に建樹さんや2000年代初頭のシンガーソングライターの空気感を感じることがわたしにはあるのですが(実際にその世代の楽曲を通ってきたであろう音楽ファンの方がTL上で話題にされていることも多いです)、相互に影響を与え合っているところはありそうだよね。
メドレー形式で流れるような軽やかさで紡がれる「ヘキサムーン」の歌詞の世界とメロディの驚くほどのタイムレスな唯一無二の煌めきに圧倒されながら心を弾ませて聴き惚れていれば、ドラマチックに弾むピアノの旋律が奏でるのは「歳ヲとること」わぁあ!!! 全部好きだけど(笑)ほんとうにほんとうに大好き!
「春の風が~」と2月下旬の〝いま〟を切り取る終盤へと一気に駆け抜けるショートバージョンで締めくくるメドレーになっていたあたりもなんとも感慨深いや。

「『歳ヲとること』は25歳くらいの時に作ったんですけど、いいタイトルだなぁと思って」
そのころから倍以上歳を重ねたいま、感じ入ることも多いようで……。
「東京に出たのが26歳の時で、ちょうど26年経つんですが……26歳から自分のベーシックを作るというのはちょっと無理でした」
人と深く関わることの難しさを感じたという言葉には、普段の語り口はやわらかく人なつっこさを感じさせてくれるのに、楽曲に閉じこめられた世界そのものはひどく張りつめていて繊細、という建樹さんのアンバランスなあやうい魅力の礎を感じるよう。
「自分の音楽生活は決して順風満帆とは言えなくて……すごくでこぼこだったと思うんだけれど、それでも曲を聴いたりライブに来たり感想を伝えてくれたりと応援してくれる人たちがいて。すごく支えてもらっているなと」
それは我々も同じ! だなん言っちゃうとおこがましいけど、そうとしか言えないよね。
表現という内へ内へと向かっていく探求と、それを人に届けること・伝えようとすることはいつでも対極の行いになるものだから、それ故の自身の心身のコントロールの苦しさはどうしてもつきまとってきたのではと思うのですが、苦しみや葛藤があった、うまくできなかったという戸惑いや痛みは『いまも尚、向き合い続けている乗り越えてきた過去』であるのだということ、その道のりの中で、絶えず見守り続け、いまもこうして目の前で、画面越しで応援しているオーディエンスの存在が支えになっていたのだ、と打ち明けてくれる姿にはとても誠実な優しさがありありと感じられて、なんだかすごく胸がいっぱいになっちゃうね。

「今年はたくさんライブをやろうと思っているので……そのときにはまた、裏切らないような曲を作るので支えていただけると」
次の節目の30周年を既に見据えていらっしゃる建樹さんからの本編最後に選ばれた贈り物は「祈り」
ここまでの流れを締めくくる上で本当にぴったりのエピローグであるのと同時に、〝現在地〟を優しく照らすようなパフォーマンスになっていたことにすごく感じ入ってしまう。


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なんとフルで無料で公開してくださっているので配信期間終了後も何度も見られるんです。うれしいね。

さて、本編終了後にはまもなくアンコール。
KOBECCOという雑誌に取材された記事が3月に発行される最新号に掲載されます、といううれしいお知らせの後に披露されたのは、なんと新曲!の「Good Times&Bad time」

「22歳頃に作ったけれど完成できなくって、アルバムの制作中にもぐるぐる回っていました。ほんとうはもっと元気な応援の曲にしたかったけれどできなくって」
25年間の苦難の道のりや、「いま」の社会の状況を取り巻く息苦しさや混乱を思えば、100パーセントのポジティブな感情を届けることは難しい。
それでも、「いい時も悪い時もある、そんな人生にそれでも誇りをもって歩み続ける」という優しい意思表明がここにはあるよう。
ここで思い出さずに居られないのは以前のライブで語られた言葉

「去年くらいから今年にかけて、音楽をやっていく上での姿勢――気持ちの持ちようを、明るい感じでやっていこうと決めていたんです。もともとそんなに陽気ではないけれど明るくもない……普通くらいなんだけれど、頑張って明るくしようと思って。そのくらい明るくやっていかないと、世の中がそのくらい暗いムードの中にいるから普通に暗くやっちゃうと埋もれてしまう感じがして」

(2023/1/27 吉祥寺Star Pine's Cafeでの高橋徹也さんとの対バンより。書き起こしではないため、ニュアンスは各自で脳内補完をお願い致します)
love-lylic.hatenablog.com


無理をしない、自分の不都合な感情にも目を背けない、痛みや戸惑いを決して置き去りにはしない。だからこそ描ける言葉や表現があるということを教えてくれるようなパフォーマンスだね。

ギターからピアノへと移られ、本編最後に選ばれたのは表題作である「Gift」
流れるようなやわらかく豊かなピアノの音色、囁き声のような優しい響きを携えながらの歌声に載せてのメッセージがまっすぐ胸に届く様に、なんだかもう胸がいっぱい。
なんて素晴らしい贈り物だろう。
演奏を終えた後は、リラックスしたようすで一言。
「最後わかった? キー、Dなんですよ」
なるほど、複線回収!笑
〝いまこの時〟を明るく締めくくってくださった建樹さんの茶目っ気たっぷりの優しさは、この二時間あまりの贅沢な時間がどれだけあたたかな贈り物となったのかを象徴してくれているかのよう。
幸せな時間をありがとうございました。


恒例となった撮影タイム。思い出を自分のスマホに残せるってうれしいよね。


わたし「いますごく胸がいっぱいで……まだうまく言えないので後で沢山しゃべります。(笑)
ほんとうにどれも素晴らしかったんですけど、『最初のメロディ』にすごく胸を打たれました。会場で見ていると生で感じる喜びで胸がいっぱいになって、改めて画面越しに配信で見ているとまっすぐに思いが届いて泣いてしまうことがたくさんあります。配信と両方で楽しませてくださってほんとうにありがとうございます。また帰ってからたくさん見ます」

じゅうぶんよーけしゃべっとるやないか、って思われそう。笑 帰りの電車に乗る頃には早速ずっとしゃべってたもんね。笑
割と言語化スピードが速いかつ、ホカホカのうちに話したいタイプなんだろうな。


CDを持ってくるのを忘れてしまったので次に……と言ったら「持ってるものにサインしますよ」とおっしゃってくださったので手帳にサインをいただきました。お優しい~。
バレンタインの本命チョコ(笑)もお渡しできてうれしかったな。

ささやかすぎるものではありますが、建樹さんが音楽を通して届けてくださった温もりに満ちた「Gift」に応えることができていればいいな。
素晴らしい時間を本当にありがとうございました。

セットリスト

1.Window(アルバム Window )
2.カナリヤ(アルバム 流れ星Tracks)
3.満月(アルバム 曖昧な引力)
4.How?@東京(アルバム Window)/Junk@神戸(満月のカップリング)
5.斜陽@東京(アルバム Music Man)/最初のメロディー@神戸(アルバム Blue Notes)
6.Sweet RendezVous(アルバム 曖昧な引力)
7.魔術師(アルバム Gift)
8.トモダチDays(アルバム 流れ星Tracks)
9.水瓶座(アルバム 何座ですか?)
10.アンブレラ(アルバム Gift)
11.イノセント(アルバム Music Man)
12.アントニオ(アルバム Rare)
13.Rare(アルバム Rare)
14.キミ晴、語る。(アルバム Gift)
15.生存本能(アルバム ファンクラブの特典楽曲)
16.ヘキサムーン(アルバム Music Man)
17.歳ヲとること(アルバム 曖昧な引力)
18.祈り(アルバム Rare)

アンコール
1.Goodtimes & Badtimes(未発表曲)
2.Gift(アルバム Gift)

東京、神戸、ワンマンライブ、ありがとうございました! | 小林建樹オフィシャルサイト

「斜陽」はいつ何度でも聞きたいので東京の配信もやっぱり買えばよかった。笑

積み重ねてきた25年間があるからこその希望を掲げられる「現在地」と「未来」があることが感じられるライブだったな。
確かな手ごたえや喜びが次につながろうとしている、とお聞きできるのがうれしくって仕方ないや。

でもってすごくさらっと次のライブの予定が発表されていますね!?
6月……まだチケット出る前だけど行く予定のイベントがあったんですが、福岡に行きたいなぁ。


<余談>
開演前に会場の外で待機していたところ、「らいさんですか? ブログ読んでます」とお声を掛けていただきました。そんなことってあるの!?笑
(服装が奇抜なのでわかりやすいらしく、フォロワーさんがこちらが名乗る前に気づいてくださることが多数あります。笑)
(あんまり需要がないと思ってたまにしか洋服の写真とか載せないのにな。みんなよう見てくれてはるんやね。笑)

「10年前のライブの感想を読んでからライブ行ってみたいなぁって思って行きました」
「フォロワーさんがおふたり、わたしの感想をきっかけに配信を買ってくださったことがあるのでこれで3人目です。笑」

一言二言の感想はみなさんつぶやいてらっしゃいますが、ツリー形式で事細かにレポートされる方やブログなどに記事を書いてSNSにアップする人はめっきり減りましたもんね。
楽しんで書いていることに思いがけず効果(?)があったようでうれしいです。

「なんであんな事細かに文章書けるんですか」(ありがたいことによく言っていただけます)
「おたくだからですね。笑」
まったくもってドヤるところじゃないけれどただの事実なんだよな。笑


終演後、スタッフさんがお声を掛けてくださいました。
「いつもありがとうございます。東京公演の配信を我慢された甲斐はありましたか?」
「ええとっても! いま恒例の余韻で足が震えてうまく歩けないタイムです!笑」
アッハッハ、このアカウントの人だってばれてたぞ。笑

建樹さんのあたたくて優しい音楽の世界を支えてくださっているみなさんは優しい方ばっかりなんだな、と改めて感じ入るような夜でした。
またの機会がいまから楽しみです。それまではたっぷり二週間(!)の配信を引き続きたくさん見ます。うれしいな。