午前三時の音楽

ライブの感想などを書いています

高橋徹也・山田稔明 友だち10年記念 “ YOU’VE GOT A FRIEND”@2023年10月21日 大阪 雲州堂


会場は北浜の知る人ぞ知る、なカフェやインテリアショップなどの立ち並ぶ界隈の雰囲気抜群の箱。
木造りのステージがすごくおしゃれ! 天井の高さも音の通りが良さそうでいいなぁ。よくあるライブハウスとはまた違う心地よい空間だね。


定刻少しすぎ、客席の間の通路をかき分けるようにして山田さんが登場。
主催だから?? 今回は京都と違ってソロ編成なの?? と思ったらご本人曰く「年功序列
白いシャツに濃いめのチノパン姿は永遠の文系大学生のようだ。
網膜剥離のためにおやすみされていたのち、復帰二回目&復帰後初の遠征ライブ! 
道中を楽しみつつも、「皆様にご心配をかけて……ライブも飛ばしてしまって」と恐縮したごようす。
正直こんなに早く復帰できるとは思ってなかったよ。ほんとうにお疲れ様です。
「みなさんちょっとでもおかしいと思ったらすぐ病院に行ってくださいね!」
と、注意喚起も忘れない。笑
ゴメスとソロ曲、新旧交えながらのラインナップは30周年を迎えるバンドの、音楽家としての歴史を辿るよう。
出力される表現の色合いは違えど、文学性を感じさせる音楽世界や都市の風景を切り取った歌詞など、共通して根底に流れているものはあるのかな。
ネオアコの系譜を引き継いだエヴァーグリーンなサウンドの煌めきと真っ直ぐに解き放たれる優しい歌声の魅力が優しく溶け合ったパフォーマンスはまるで時間を超えて届けられた手紙のよう。
いまの山田さんの表現力で演奏されるからこそ見えてくる景色もあるんだろうなぁ。
みなさんうっとりと優しい音楽に酔いしれ、合間の軽妙な冗談混じりのMCにはあたたかな笑い声がこぼれる場面も多々。
山田さんは関西でも定期的に企画ライブを行われてるからか、山田さんの熱心なファンの方たちからの「おかえり!」ムードはあったのかもなぁ。

MCの内容をすこしご紹介。
(順番はばらばら、言葉のニュアンスは各自で脳内補完してください)

「僕は視力が悪くてコンタクトをしてるんですが、右目だけコンタクトで左目は裸眼なんです。これは手術で目にレンズを入れたからなんですね。目が反射して光るんですよ」
山田さんはサイボーグヤマーダに進化した!笑

「看護師さんには山田さん前を見ちゃダメですよ! 下を向いてください! ってきつく言われて……上を向いてとか前向きにって散々言うのにねえ?笑」

治療期間は急なお休みとなったため、普段なら時間もなくてじっくり見られないドラマや映画を見たり本を読んだり……と思っても目が使えないのならそれもできない。
戸惑いながらもなんとか過ごされてきたとのこと。
いやあ、メンタルにもかなり堪える状況であったはずなのにこれだけ明るくあっけらかんとお話してくださる山田さんのおおらかさよ。

(毎日のポートフォリオについて)
「左目のカメラというフレーズが出てくるんです、まるで予言みたいですよね」

今回の大阪への旅は山田さんの目の件もあり、運転は高橋さんが担当。
大型トラックとの一触即発? な場面など、さまざまな楽しいトラブルを乗り越えつつ西へ向けて爆走する高橋さんとの久しぶりの二人での長距離ドライブはかなり楽しかったご様子で、これだけでドキュメンタリーが出来そう。笑
「久しぶりに遠征をすると、高速道路もホテルも値上げラッシュで特に土曜は宿が取りづらくて手配が大変でした。今後は日曜や平日のライブが増えるかも」
気候の良い中で出かける人も随分多く、社会が動き出したんだな、というのを痛感したそう。
みんながみんな土日休みのお仕事ではないとは言え……エンタメ業界は変革を迫られつつある時期なのかな。

(高橋さんとの出会いについて)
「存在は知っていたのにおたがいにいけすかないと思っていて挨拶もしたことがなかったくらいなのに、10年前の共演をきっかけにお互いの最新作だった「新しい青の時代」「大統領夫人と棺」を聴いてものすごく刺激を受けあってそれからすぐに意気投合して」
作品を通してシンパシーが繋がるとは、芸術家ならではだ。

ところでその親友が出会ったライブには三人目がいたんですよ、三人目の大天才が。
そう、小林建樹さんが。笑
当日は(高橋さんの熱心なファンの多い)わたしのフォロワーさんたちも多数いらしてたようなんですが、メジャー時代以来ぶりに建樹さんの生でのパフォーマンスを見た皆様が度肝を抜かれていたのをよく憶えています。笑
三者三様に素晴らしい個性と才能の持ち主なんですが、建樹さんのライブにはめちゃくちゃ突き抜けた伸びやかな美しさが溢れていて、とてつもない「曖昧な引力」が爆発してるんですよ。知らないで出会ったらお口ぽかんで椅子から転げ落ちそうなくらいの衝撃だよね。笑)

話題が逸れてすみません、がまんできなかった。笑

(「glenville」について)
「これは架空の都市について歌っている曲です」

こうして楽曲の生まれるまでのエピソードを合わせて聞かせてもらえるのはライブならではだね。
「都市を描く」って点でも共通点があったんだな。

やがて、30年の音楽家としての軌跡を辿る時間旅行はあたたかな祝福と光に包まれた「夜明けまで」を披露し、まばゆい光でフロアを包み込むように終了。

山田稔明ソロ セットリスト
1.アップダイク追記
2.何もない人
3.情熱スタンダード
4.サテライト
5.毎日のポートフォリオ
6.glenville
7.光と水の新しい関係
8.光の葡萄
9.夜明けまで


ここから後半戦、ステージにはボタニカル柄のシャツにジーンズ姿の高橋さんが登場、ここから一気にいまでとは会場のカラーが変わります。
久しぶりの関西、親友である山田さんとの二人旅、雰囲気も最高な会場に満員のお客さん、と気分は高まるばかりのよう。

「関西では28年前にKiss FMで高橋徹也 Blue Cafeというラジオを一年ほどやっていて、ジングルなんかも作って。もうどんか曲だったかまでは覚えてないんですけど。聞いてらした方、いらっしゃいますか?」
(後方にいらした男性が手を挙げる)
1月のライブでも四半世紀を超えた音楽家人生の歴史を楽曲に落とし込んだ景色に寄って振り返るようなパフォーマンスを見せてくれましたが、あらゆる角度からこれまで積み重ねてきた時間に光を当てて、「いま」を描いていくというのが昨今のテーマなのかな。
さながら「巻き戻す時間」だね。(わたしはHARCOさん/青木慶則さんの音楽がとても好きです)

一度きりのデビュー曲を、というMCから軽やかに解き放たれるように演奏された「My favorite girl」の瑞々しい美しさといったら!
他の方を引き合いに出すのはナンセンスかもしれませんが、高野さんの「See you again」といい、演奏されるたびにどんどん良くなっていくね……。
豊かな人生経験は解き放たれる表現に角の取れたやわらかな瑞々しさと奥行き、新たな輝きの魔法をかけるのかもしれない。
続く「八月の流線型」のやわらかな瑞々しく煌めきに満ちた世界はまるで爽やかな風が吹き抜けるよう。
おや、なんだか今日の高橋さんはものすごく軽やかでキラキラしている。
親友である山田さんとのライブ、というリラックス感もあるのか、どこか山田さんの持つ楽曲世界の空気を身に纏っているようないつもとは違うオーラがあるぞ。

共演者であり10年来の親友となった山田さんには音楽家としての多大なるリスペクトがあるようで、ラブコール(?)もバンバン出てくるほど。

「山田君は言葉選びに無駄が一つもなくて、洗練されているんですね」
おお、歌詞の世界にどこかしら共通項を感じていたら高橋さんもそこにリスペクトを置いていたんですね。
「山田くんのファンに自分の音楽に触れてもらえるのがすごく嬉しい」
と得意げな様子にこちらもニッコリ。
新たな出会いが広がるのが対バンの素晴らしいところですもんね。

「関西ではリリースライブがやれなかったので初めて披露できるのが嬉しい」
と特別な思いを込めて披露されたのは「怪物」
おお、ここでそれが選ばれましたか! とはいえ、これしかない感はありますよね。
「怪物」は20代の自らを懐かしむような、宥めるような不思議な優しさと底知れなさを孕んだ名曲ですが、そこからその当時の楽曲へと「降りていく」構成はお見事。
チャイナカフェのかっこよさは言わずもがなですが、名曲「新しい世界」の力強い瑞々しさと風通しの良さは圧巻の一言。
いつ何度聞いても素晴らしいんだけど、この日のパフォーマンスは本当に軽やかで色鮮やかで、一気に視界が開けてみるみるうちに音楽の渦に飲み込まれてしまうような感動がありました。
狂おしいほどの深度で闇を見つめているかのような、心地よい孤独に堕とされていくかのような「犬と老人」に穏やかな浮遊感を感じられたのも素晴らしかった。

「僕は古い考え方だとは思いますが、男は泣かないという主義で…….そんな僕が珍しく人前で泣いたことがあります。一度目は一年担当したラジオが終わる時で、本当に悔しくて悲しくてスタッフの前で泣き崩れて」

そんなに大切な番組だったんだね、しんみり。

「二度目はお母さんが亡くなった時でした。兄貴やお父さんが泣いているのを見たのも初めてで……それだけ偉大な人だったんだな、と思います」

この日のライブの数日前に亡くなられたお父様のお誕生日を迎えられていたことも関係してたんだよね、きっと。
全ての聴衆が自分のファンではない場で、あくまでも明るく軽やかにとても大切なことをわたしたちにそっと打ち明けてからの「Feeling sad」にはいつもに増して胸がいっぱいになりました。
日常の当たり前の風景の中で喪失を受け止め、それでもその悲しみを乗り越えて続いていく人生を音楽とともに歩み続けよう、という高らかで美しい決意表明のようだね。

さて、あっという間に高橋さんはラストの一曲へ。

「この曲はデビューシングルになり損ねたんですが、20年余りの時を経てアルバムタイトル曲になりました」

披露されたのは「スタイル」!!!
いや、ものすごく瑞々しくて力強くてかっこいいからびっくりしたけどそんなことあるの!?
四半世紀の時間を行き来しながら突き抜けるような鮮やかな軽やかさが駆けていく、素晴らしいエンディングでしたね。

高橋徹也パートsetlist
My Favourite Girl
八月の流線形
怪物
チャイナ・カフェ
新しい世界
犬と老人
feeling sad
スタイル


ソロステージが終わり、まもなくして二人揃ってのアンコールへ。

山田さん「友達10周年ライブって企画に関しては色んな人につっこまれましたよね」
高橋さん「バンドメンバーから『そんな区切りのライブやっていいんですか?』って言われたよ」

うん、正直笑いました。笑

シンガーソングライター同士は横の繋がりもなく孤独な人同士で馴れ合わないのが基本……なのに作品を通してお互いへの興味がグッと高まって珍しくすぐに連絡先を交換しあい、そこから10年の密なお付き合いがはじまったというおふたり。
お互いにプライベートな雑談、音楽に関する情報交換、制作に行き詰まった時の弱音まで吐き出せる仲なのだとか。

山田さん「どこどこであのレコード売ってたよみたいな話からレコーディングの状況まで。全部やり直したみたいなのとかも。だから僕はタカテツさんの制作状況を全部知ってるんです(得意げ)」
高橋さん「毎日のように何かしらやり取りをしてて、彼女かよっていう。笑」

みんなおもてたけど大人やから言わんかってんやで。笑
なんだか大学生がファミレスで夜通しおしゃべりしてるノリが続いているような親密さですよね。大人になってそんなふうに深くつながり合える友達が出来るだなんて素敵だな。
そんなふたりの正式な出会いは10年前の共演と思いきや……?

山田さん「僕は映像制作の会社でADをやっていて、その時に撮影に行った先で流れていたものすごくカッコいい曲に衝撃を受けたんです。それがタカテツさんの『真夜中のドライブイン』で。だからあのPVにはクレジットされてないけど僕も関わっています(得意げ)」
高橋さん「山田くんは共演するたびに毎回律儀にその話をしてくれるよね」

初めて聞く人もいるかもしれないことを忘れない!笑
そして、話題は10年前の共演についても。

山田さん「10年前にセッションでビートルズやる? っていったら僕はストーンズ派だからってタカテツさん断ったんだよね。そんな人いる!?笑」
高橋さん「いまなら断らない。笑」
山田さん「こないだイマジン歌っててびっくりしたんだけど」
高橋さん「先輩バンドマンにやろうって言われたからハイって」

人は丸くなるんですね。笑

二人ともの原風景にあるというスミスのカバー、前回の京都公演ではアアルトコーヒーの庄野さんとの共演だったため、お互いに縁のある庄野さんへのリスペクトを込めて、とつくられた唯一の共作曲の「君と僕とカップソーサー」を披露。
親友ならではのリラックスした息の合い方、寄り添うような歌声のハーモニー。
この二人が共に歌うと、お互いにそれはもう見事な伴走者になるんだよね。1月の建樹さんとの共演で見せてくれたものすごい天才の個性が真正面から合流して驚くようなUNERI をもたらしていたのとは全然ちがう!
風や光を感じさせるような伸びやかな心地よさが溢れています。
これだけ息ぴったりのふたりなんだし、是非とも今度はレコーディングしてほしいですよね。
4年前にはふたりでアルバムを作ろうって話もあったんだけどなぁ。

山田さん「僕もタカテツさんも他の人の作品にゲスト参加することはほとんどないんだけど、タカテツさんには僕のアルバムにコーラスとかで参加してって話は前からしてたんだよね。タカテツさんの新作にも呼んでほしい」

山田さんはHARCOの「春のセオリー」がパッと思いつくけど、高橋さんはないよね。
楽曲提供とかプロデュースワークもやらない人だもんなぁ。

今後のお二人の予定としては「次は北へ向かう」とのこと。
おおー! 四季を駆け抜けるふたりの旅はまだまだ続くんだな。
「真夜中のドライブイン」で出会ったふたりが四半世紀先の未来でこんなふうに二人旅に出る親友になるだなんて、なんだか運命的だね。
親友二人で行われるライブは満を持してと言わんばかりの「友よまた会おう」で締めくくり!
本当に名曲だし、我慢しきれなくなって笑 ライブに行き始めた2023年のわたしにはとてもとても心に響くなぁ。
音楽がまともに聞けなくて腐っていた間にも希望を繋いで待っていてくれたからまたこうしてこんな素晴らしい夜にたどり着けたんだよ。


音を出しちゃいけない時間ギリギリだから……と気にしつつもボリューム抑えめで「友よまた会おう」をリプライズしながら最後は恒例の撮影タイム。
この笑顔があれば言葉はもういらないね。

高橋徹也 × 山田稔明 セッション>
1.幸せの風が吹くさ(山田稔明)
2.真夜中のドライブイン高橋徹也
3.THERE IS A LIGHT THAT NEVER GOES OUT(The Smiths カバー)
4.君と僕とカップとソーサー(共作曲)
5.my favorite things(山田稔明)
6.友よまた会おう(高橋徹也


さて、せっかくなのでフロアにいらっしゃるおふたりに感謝を伝えて帰りましょう。

わたし「山田さん、ご病気すごく心配していたので安心しました。ほんとうにお疲れさまです」
山田さん「いえいえ、ご心配をおかけして……」
わたし「山田さんのファンのお友達から高橋さんとの2マンよかったよ〜ってお聞きしたので京都の高橋さんのライブの日に『またやってくださいね』ってお伝えしたらツアーをやりたいですっておっしゃってくださってすごく嬉しくて……何度も来てくださってすごく感激しました。4年ぶりにまた関西に来てくださって本当にありがとうございました」

山田さんは終始にこやかでお優しくてなんだか安心感があるなぁ。
お土産もお渡ししたので高橋さんにご挨拶へ。

わたし「1月とはまたみえる景色が全然違っていて……あの時のバチバチに緊張感のあるステージとは打って変わった、山田さんの空気を身に纏ったような優しくて爽やかな高橋さんも素敵でした」
高橋さん「またバチバチさせますよ」
そうこなくっちゃ!笑

わたし「7、8年前?(なんと10年前でした!)の鹿島さんとのデュオ以来の大阪、本当にうれしかったです。静岡での佐藤さんとのデュオも大変素晴らしかったので、またああいった感じで大阪にもきてくださると嬉しいです」

わたしが7.8年前って言うてもうたからか、そんなのありましたっけ? って言われちゃった。笑 たくさんライブやってるから仕方ないよね。笑
お話させてもらいながらお土産などお渡ししたあと、帰り際にぼくは大事なことをお伝えしました。

わたし「我らファンは10年前の建樹さんも交えた3マンの再来をいつまでもお待ちしております!」

高橋さん、「おや?」と興味ありげ?? に見えたので……山田さんと話題に出してくれてたらいいんだけどなぁ。
ぼくは『夢は口に出すと叶う』ってことをこの一年くらいで立て続けに経験したんですよ、建樹さん関連でそれはたくさん。笑
叶うといいんだけどなぁ。そろそろお三方の新譜も聴ける頃だろうからちょうど良くないです?笑



この先20年、30年と親友同士の音楽の旅が続いていきますように。