午前三時の音楽

ライブの感想などを書いています

小林建樹ワンマンライブ”ふるえて眠れ”@04/30 神戸ALWAYS

2月に発表された新曲「震えて眠れ」をタイトルに冠したライブはなんと東京と、建樹さんの生まれ故郷である神戸での初めて! のワンマンの二公演。
関西でのワンマンだなんて10年ぶり! しかも一週間前の東京公演は配信で観られる!
めちゃめちゃびっくり&嬉しくて(なぜなら一ヶ月前にしばらくライブがないので制作に集中されるとアナウンスされていたから)(しばらくってなんやってんやろ。笑)発表されたタイミングではあんまりうれしくて泣いたものです。

というわけで、うきうきで胸がいっぱいな中、建樹さんの生まれ故郷、神戸でのライブのはじまりはじまりです!
5/14まで視聴可能の配信チケットはこちらで購入できます。少しでも気になられたらぜひどうぞ!

※当然ながら全般的にネタバレを含みます、配信を視聴前でまっさらな気持ちで楽しみたい方はご注意ください。
※配信で観た東京公演の感想はこちら、よろしければ合わせてご覧ください。






会場となったのはジャズのライブなどがよく行われているのだという、駅近で雰囲気のある箱。程よく横幅の狭いステージにはあちらこちらにカメラがセッティングされているぞ。(この複数台のカメラによるとんでもない高画質&高音質、映画並みのアングルの凝りに凝った映像美に帰宅後のわたしはびっくりさせられます)
客席からは、再会は10年以上ぶりだという同級生のみなさんのお喋りも聞こえてきくるあたり、地元ならではだね。
こうしてびっしり客席が埋まってることが始まる前からすごく嬉しい〜!

定刻少しすぎ、nervous colorsから本編はスタート。
いや、東京公演も半端なく素晴らしかったですがますますいよいよ持ってアップグレードされてますね!?
歌声の伸びやかな美しさ、楽器と渾然一体となって全身で音楽を奏でられた時の高揚感が半端ない! 
いや……知ってるけどすごすぎへんか? これがデビュー24年目の人が奏でているだなんて、と圧倒されてしまうほどに歌声と演奏の艶と奥深さがすごい。円熟と瑞々しさの両方が備わっていて、びりびり心を痺れさせてくる。
この声ほんまに目の前の人から出てるんやんな、この人の声帯はどうなってるんや、と1月にも観たはずなのに改めてすごくびっくり。
演奏が始まった途端にフロアを一気に染め上げてしまうこの世界観がすごいんだよ。楽曲の持つ素晴らしさをパフォーマンスの力によって何百倍にも増幅させてしまうんだから。

ここできょうのファッションチェック
紺のTシャツ、紺のジャケット、ウォッシュの入った細身のブルージーンズ、くすみブルーにピンクのNマークのニューバランス
このところ定番のお衣装ですね。このカラーリングかわいいなって足元をじいっと見ちゃう。

いやあ知ってるけどほんますごい、見る度に最高を更新してくるのやけど……と一曲目からびっくりしすぎてビリビリしていたところ、流れるようにsound glider〜満月へと。
楽曲の持つ多彩な色ももちろんだけど、やっぱりこの独自のハイトーンでキュートさと艶かしさ、繊細でありながら芯の強さを感じさせる声は唯一無二の武器であり、財産だなぁ。
歌声と演奏を渾然一体とさせてしまうパワーに溢れていて、歌うようにギターを奏でるさまにたまらなく惹きつけられてしまう。

(満月の前奏中)
「こんばんはー、小林建樹でっす!」

お、ちょっと前回よりも勢いがある。独特の緊張感は毎回あれど、テンションはやや高めなのかな。懐かしい人の顔も見えているだろうしね。

ここで最初のMC。
ライブ活動の再開から一年、応援してくださってありがとうございます。(こちらこそ、楽しませてくださってありがとうございます!)と、感謝の意を込めてくれたあとは、今回の開催地、神戸について。

「僕は神戸出身で、デビューする前に神戸で作った曲がたくさんあって、1stアルバムにもたくさん入ってるんですけどそれ以前にもたくさん曲を作っていてーーリリースとか全然してないんですね」
どこにも出していないけれど、自分の中で節目になる大切な想いが詰まっているから、と歌い続けている曲があるのだそう。
「どこでも歌ったことがないんですけれど、せっかく神戸でのライブなのでワンコーラスだけ歌います」
と、なんと25歳ごろに作ったのだという未発表曲「月が震えた」をここで披露。
瑞々しさとピュアネス溢れる世界が四半世紀を超えたいまの建樹さんの表現と合流しあうことで、煌めくような優しく澄んだ世界が見えてくるよう。
わー、これが未発表でフルコーラス聴けないだなんてもどかしいな。それでもこうして機会をくださったことが嬉しくて仕方ないや。
そのまま、流れるように「Boo Doo Loo」へ。
今回のための特別アレンジを入れた間奏ももちろんたまらなくカッコいい!
建樹さんの成熟した魅力と天性のリズム感、振れ幅の広さを感じさせてくれるメドレーだね。

「きょうは新幹線が30分遅れ、マンションのエレベーターに閉じ込められ、とトラブル続きで。いまは水星逆光の予期せぬことが起こる時期なんですね」
無事に辿り着いてくださりありがとうございます、お疲れ様でした。

やがて話題は新曲「震えて眠れ」と、音楽映画「中央線のプレスリー」へ。
ふいにアイデアが降ってきて構想が生まれた、とのことですが、そこに至るまでに複雑な心境があったことは間違いないよね。(window/shadowの時期だよね)(この2枚からセレクトされた曲があったのも意味があったのかな)


youtu.be

時を経たことでその頃の気持ちや、もっと以前の10代の頃のカッコいい先人たちへの憧れと原点回帰に立ち返れる時期にきた、ということなのかも。
初めて耳にした時にはストレートな感情の吐露にびっくりしましたが、軽やかで風通しの良い明るさに満ちているのがすごく好きです。
焼け付くような痛みと焦燥に向き合っていたのであろう20年前の楽曲たちに今一度ライブを通して向き合ってきたこの一年余りの時間のことはきっと無関係じゃないよね。
そのまま駆け出すような力強さと切なさを孕んだそれは愛ではありませんに流れていくのもたまらない構成だ。
すごく好きな曲なので久しぶりに聴けて嬉しいな。この原色の絵の具が出されたカラフルなパレットみたいなビビッドな世界観、大好きです。

ご友人さん「建樹サイコー!」
我らの気持ちを正に伝えてくださった。笑

「きょうは知り合いが来てるもんでかなり緊張してるんですよ」
はにかみつつも、なんだか嬉しそう。こんなにカッコいいライブを見せてくれるだなんて、自慢の同級生だよね。

ここで「久しぶりに歌ってみたらよかった」という『say once more』で前半の締めくくり。
shadowはつくづく名盤だよね、ほんといい曲だな。

さて、ものすごくあっという間の前半パートがここで終了。セットリストやMCなどの流れはおおむね東京と同じなんだけれど、東京公演という前哨戦を経ているからこそ、切実なまでの痛みが穏やかに包み込むような優しさで覆われているように感じられました。
建樹さんがすごく繊細でお優しい方なのは作品に触れていればありありと伝わるし、だからこそご自分の気持ちに向き合ったすべてをパフォーマンスに込めることはすごく苦しくて勇気がいることだと思うんですよね。東京でのライブを成し遂げたこと、そこで大きな感性と愛でそれらを受け止めたお客さんたちが会場と画面の向こうにたくさんいたことが大きな糧になって、この素晴らしい夜が生まれたんだろうな。
そして何より、全身で感じるこの音の洪水の没頭感が半端なくて、圧倒されっぱなし!
はあ、本当にすごかった……すごかった。けど、まだこれ前半やねん。笑


胸いっぱいのワクワクに包まれながら、後半戦がスタート。
とんでもない熱気ですこしほつれた髪の毛(それもまたセクシーですてき)も整えられ、Tシャツはえんじ色にチェンジされています。
ピアノに向かい合い、優しく奏でられ始めるのは「青空」
この純度が高い煌めきに満ちた美しさと優しさ、瑞々しい音がフロアいっぱいに満ちていく感じがたまらないな。ますます増した表現力の深さと奥行きに心が飲み込まれていくみたい。
「頼りない人生の途中だけど構わず歌うよ」という高らかな決意表明が後半戦のスタートになるあたり、本当に素晴らしいセレクトだね。
そのまま流れるようにdiaryへと繋がる構成も素晴らしかったな。ひとつひとつの音をすごく丁寧に優しく拾い上げていくように紡がれるピアノの音色と、自身に言い聞かせているかのように穏やかに優しく響く歌声がたまらなく瑞々しくて優しくて。


youtu.be

バンドでも聴きたいなぁ。


続いて、話題は先月亡くなられた坂本龍一さんについて。
「長く闘病されていたので覚悟はしていたけれど――音楽だけではない基礎の部分を支えてもらっていたので、かなりぐらついています」
直接関わり合いがあったわけではないから……と言及することにはためらいもおありのようでしたが、ライブに向けて準備を進める中、長らく師事していた方の訃報が届いたことはどれだけ大きな痛みや戸惑いとなったのだろう。


youtu.be

建樹さんの言葉を受けてからテレビ放送されたplaying the pianoを見た時、必死に生きようとする人の生命の輝きを感じたんですよね。
きっと帰ってくる、この人は大丈夫だと放送の際には心から信じていたし、radio sakamotoで の小山田くんと大友さんの「坂本さんに会いたい」が叶うことを信じていた。
あれがスワンソングであることをわかっていても、受け止めたくなかったというのが大きいんだと思います。


(「the fight」について)
「高校生の頃、音楽を志してすぐに自分には普通の曲が作れないことに気づいて落ち込んでいた中、すごく衝撃を受けて励まされたんですね。カセットにダビングしたものを繰り返し聞いてコピーして」

美しいのに不穏で、大胆で力強いアバンギャルドな構成のこの曲があのスタンダードナンバーの大名曲である「Merry Christmas Mr. Lawrence」が収められているのと同じアルバムに収録されていることがそもそもの衝撃だったんだろうな。
(原曲を聴いてみると、このあまりに大胆な構成とアレンジ、音の重なり合い、メロディラインに驚かされます。音楽でこんな扉を開いてしまえるんだ、という大胆な挑戦と自由さを感じる。)
(これをご自身の世界観に落とし込んで見事に弾きこなしてしまう建樹さんのすごさよ)

続いて、ご自身の曲である「目の前」について。
「ヨーロッパの魔女が出てきそうな暗い森が浮かぶようで。綺麗な曲なんだけどちょっと気持ち悪いなって」
美しさと不穏さが同居する独特の世界観は坂本龍一さんが音楽で描きだした光景にもどこかつながり合うよう。
このために施されたスリリングで張り詰めた美しさが際立つアレンジの素晴らしさと、暗闇にしずかに降りていくかのような張り詰めた美しい歌声が描き出す景色の幻想的な世界観に一気に飲み込まれてしまいそう。

続いて奏でられるのはspider〜song writer〜ヘキサムーン〜song writerの変則メドレー!
いやあ、この円熟と瑞々しい力強さの両方をやすやすとこなしてしまう圧巻のパフォーマンスのすごさをどう言葉にすればいいんだろう。
ここで歌われる自分にとっての大きな指針となってくれた「あなた」はわたしにとっては建樹さんの存在に他ならないんだけど、きょうこの場では、教授をはじめとする、礎となってくれる音楽を生み出してくれた人たちへの想いがあったんだろうな、と思わずにいられない。

とめどない熱狂でフロアを湧かせた後、話題は近頃なにかと評判のchatGPTについて。
「少し前にテレビで見たんですけど、歌詞を書いてもらっていたんですね。自分で書くと本当に何日もかかるのが、chatGPTならものの30秒くらいで結構いい歌詞を書いてくれるんです」
これだ! と文明の力に頼ろうと思ったけれど結局は登録などで頓挫してしまい、使う段階まではいかなかったとのこと。
とは言え、AIがやってくれるのは人間から指示された「命令」に基づいての情報処理からの作品の生成であり、純然たる「創作」ではないんですよね。

「chatGPTにはシチュエーションなどを細かく具体的な注文する形でオーダーすればいい、と聞いたので自分から自分に注文を出してみたところ、4曲くらい歌詞ができました」

プロットを綿密に作っておけば迷わずにサクサク書けるのと同じ仕組みですよね。
『chatGPTにはとても書けない歌詞』の新曲は新しいアルバムに収録される予定だそう。
楽しみだなぁ!

建樹さんがAIに興味を持ったそもそものきっかけは、人がどういったふうに物事を認識するのか、に関心を持っていたから、とのこと。(東京では脳科学の話が話題になりましたね)
そのことからふとご自分なりに考えたのが「瞑想や坐禅をするとスッキリする、と言われているのはなぜだろうか」ということ。
そこで建樹さんなりに出した答えは「自分の経験からつい選んでしまいがちなパターンからふいに抜け出し、パターンになりえなかった記憶にアクセスできるからではないのか」だったあたり、すごく興味深い。

「皆さんも行き詰まってるな、と思ったら是非やってみてください。僕はやったことないんですが」

ないんかーい! ってみんなつっこんだに違いない、だってここは関西だから。笑


東京で話してくださった時からなんだか不思議なエピソードだな、とは思っていたのですが、もしかすればここに込められていたのはライブという場の空気の中では、どれだけ綿密に自身の表現を磨き上げて挑んだのだとしても『パターン』から逸脱した思いがけないものが引き出されるという話だったのかな。
なんにせよ、ライブという表現の場に可能性と喜びを見出してくださっていらっしゃるようなのがすごく嬉しくてたまらないや。

続いて披露されたのが「パターンを脱したいつもとは違うイントロ」が美しくも印象的な祈り。
このところ、毎回平和を願う気持ちを込めて、と届けられていたこの曲に今回は違う視点、景色が載せられていたようで、それがまた新鮮だったなぁ。
自身の心の中を見つめればきっと、奥底には『パターン』に収まらなかった思いもよらないような記憶や経験、そこからしか描き出せない答えが眠っていて、自らを奮い立たせる力となってくれるはずなのだということ。

答えは全部心の中に、からフィナーレのpreludeへの流れが本当に完璧で美しくてたまらない。高揚感と喜びと愛が溢れているよね。音楽にはこんなに自由で優しくてあたたかい力があるんだな、と思わせてくれる。
この人に音楽があって、こんなにも音楽に愛されていて、それをこうしてありありと見せてもらえることが本当に嬉しくてたまらないや。
とても感慨深げなようすの「ありがとうございました、またライブでお会いしましょう」(この言葉が我らにどれだけの大きな喜びをくれるのかと言ったらもう!!!)とのご挨拶の後に一旦退場、まもなくアンコールへ。
新作「何座ですか?」から牡牛座の解説とピアノでのお披露目(このバージョンもカッコ良すぎるからピアノアレンジ盤もほしいなぁ)と、東京と同じ流れの後は……?
「東京では新曲をアンコールにやったんですけど、関西では別の曲をやります。きのう思いついたんですけど」
おおっ、これも「パターンからの逸脱」では!?

「あったかくなってきましたね。冬の曲をやります」

そうゆうとこありますよね、大好きですよ。笑
ここで披露されたのが「イノセント」もちろん文句なしに名曲なんだけれど、いまこの時、ここで届けられる時のさらに高められた奇跡のような輝きが本当に素晴らしかった。


youtu.be

なんとこの素晴らしいテイクがフル公開されているんです、嬉しすぎるよね。


「It's OK」の代わりにイノセントが急遽入ったこと、なにか大きな意味を感じずにいられないや。
東京のライブで少なからず感じた切実さや戸惑いや痛みがどこかしら薄れて、音楽に載せて心を解放していく喜びが満ちているライブだなぁというのをすごく感じさせてもらったのですが、東京のライブで得たものが「大丈夫」を口にしなければいけない、という切実な痛みを和らげて、新しい景色を連れてきてくれたのかな。

ここから本編最後は「新しい世界の幕開けのブルース」であるピアノでのアレンジでのB.B.Bでフィナーレへ!
跳ね回るリズムも、軽やかでのびのびとした艶のある歌声も、本当にたまらない高揚感を連れてきてくれるね。会場では軽やかにペダルを踏む足元を注目して見ていたのですが(配信に映らないから)ペダルを踏む音が収録されているのもたまらないなぁ。
アウトロでの「神戸でやれてよかった、きてくれてありがとう」の言葉の重みとあたたかさ、本当にすごく胸に迫ってきてたまらない気持ちにさせられてしまう。本当に本当に、素晴らしくてたまらなかったな。

ライブ後には本当にこの日のことが嬉しくてたまらなかったことへの感謝と喜びをお伝えして帰りました。
どことなく12月や1月の時と印象が変わって見えたのはやはりこの日にかける思いや、受け取ったものの大きさがあったからなのかな。素晴らしい時間に立ち会えて、本当に幸福でした。


僕はマッジでかっこいいしか言えなくなってしまった。笑


作品紹介のフライヤー、「Mystery」のキャッチコピーがなんなのかが気になります。
Ropeが濃縮、Emotionは発散なんだね。


神戸でライブが実現できて本当に良かったなぁ。
なんだかすごく色々と込み上げてくるものがあるし、建樹さんの充実ぶりが伝わるお言葉が本当にうれしいや。また関西でお会いできますように。