午前三時の音楽

ライブの感想などを書いています

高野寛 「City Folklore」season 1. 2019/11/15 大阪桜ノ宮公会堂

会場となった桜ノ宮公会堂は結婚式なども開かれているというシャンデリアの灯りが美しい格調高い建物。カウアンドマウスさんは会場も楽しみのひとつですね。
場の雰囲気に合わせてか、パーティドレスのお客様もいらっしゃいます。いいなぁ。
やがて19時半過ぎ、サイドの窓にスクリーンが降り、ひときわ高いステージに高野さんが登場。
後ろの大きな窓にはライトアップされた緑の木々、まるで映画のセットのようです。

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〜〜〜♪
(魔法のメロディのオケ)
高野さん「いまのは間違えました笑」

今回からの相棒、Mac bookは手懐けるのが難しい手強い相棒らしく、本番中にも苦戦のお言葉がちらほらと。笑
冨田さんプロデュースによる、フォークトロニカとも呼べるサウンドをライブで再現する手段として高野さんが選んだのは、PCとエレキギターでのパフォーマンス。
「30年やってきてはじめての試みがこの初日のライブ」とおっしゃいますが、新しい挑戦をとても楽しんでいらっしゃることが手に取るように伝わります。

「今日はアルバムの曲とともに、いまの気分で演奏したい曲を歌います」とのこと。
以外なところでは「寒くなってきたので」とあがた森魚さんの大寒町のカバーが披露されたりも。
おお、これは思いも寄らなかったからうれしさもひとしお! 素晴らしい!

最新作City folkloreは70年代のシティポップを踏まえての「いま」を映し出す音楽となっているのですが、高野さんのまなざしが捉えた「現代の街」について語られる場面もライブ中にはしばしば
(覚書のため、ニュアンスなどは正確ではありません)

「去年は大阪では豪雨災害が度々起こりましたが今年は関東で立て続けに災害が起こり、自分の住む街でも避難勧告が出ました。異常気象がこんなにも続いて世界はこれからどうなっていくんだろう」
「東京はご存知の通り、オリンピックで目まぐるしく街が変化していますが大阪も心斎橋の街がびっくりするほど様変わりしていて」
TOKYO SKY BLUEがOSAKA SKY BLUEになる特別サービスありがとうございます。えへへ。
「はれるや」は中目黒ではなく「西天満〜」に。これには思わずニヤリ。

目の前に映る景色、ライフスタイルの変化は当然音楽にも映し出されるもの。
楽曲の中に描かれている風景は当然「その時」のものです。とはいえ、歌い継いでいく中で「当時」には見えなかった新しい景色が見えてくるんですよね。

(Bye Bye Television について)
スマートフォンなんて存在しなかった2000年に作られた曲なのに『小さな画面』という歌詞はまるで配信の動画を見るスマホの画面のよう」

(キュリー夫妻を題材とした「ピエールとマリーの光」に関して)
「研究に身を費やしたふたりだったけれど、夫のピエールは落馬による交通事故であえなく、マリーは放射性物質を無防備に扱っていたため、内部被曝を患い命を落としてしまう。彼らの足取りをモチーフに、とても難航しながら曲が形になった」
(とても丁寧に言葉を選び、やわらかな口ぶりで)
「どんな風に伝えればいいのかわからないけれど、そうやってうまく言葉にできないことを表現するために曲を作っているのかもしれません」


高いステージの上でお話される姿はさながら講演会のようでご本人からも「講義かなにかみたい笑」とのお言葉。高野せんせーい!笑
久しぶりの「アトムの夢」はテーマの繋がりから選ばれた選曲でしょうか。
これももう21年前。311の災害など誰も想像出来なかったころに書かれていたことにただびっくりします。

(ハース・マルティネスのAl together aloneのカバーについて)
「ギターソロを完コピしました笑」


ドラムもいない編成なので当然アレンジは変わってしまう……とは高野さんの弁ですが、だからと言って物足りないだなんてことはあるはずもなく!(きっぱり)
数十年前の曲も新しい曲もみな、新しい試みに挑戦した高野さんが鳴らすことによってより大きな、新しい世界を色あざやかに広げてくれているのがありありと伝わってきます。

全編を通して感じたのは、ゆるやかな開放感と音の世界の広がりでした。
昨年の30周年は過去を振り返る中での迷いや痛み、それらを乗り超えてきたことのへの誇りのようなものが随所に感じられて何度も涙ぐみながら見ていたのですが、今回のステージに広がる世界には全篇にわたって「未来」を照らすまばゆいばかりの光が溢れていました。
なんで30年を超えてこんなにもみずみずしくてまばゆくて新鮮な音が鳴り響いているんだろう、と驚くばかり。
常に変化と成長を繰り返す学生たちとの出会いは大きな化学反応を起こしてくれたのでしょうか、「自分の信じるものを手に、光の射す方へ」という強い信念がステージいっぱいに広がるよう。
ステージの上で繰り広げられる音の世界はいままでとまるで違う奥行きと共に光輝き、より一層の進化を遂げたあたらしい「これから」の高野寛の音楽世界が体現されているように感じられました。
10年以上ずっと歌われてきた「停留所まで」が、やわらかにやさしく「いま」を照らす歌として鳴り響いていたこと、「夢の中で会えるでしょう」が優しいアンセムとして鳴り響いていたことがとても印象に残りました。


さてはて、二時間半近くの胸いっぱいのライブが無事終わりました。この素敵な時間をくださった高野さんにご挨拶とお礼をしたいぞ。サイン会に並びましょう。
とにもかくにもこの喜びをただ届けらればそれでいいのだけれど……お伝えしたいことを考えながら前に並んだ方々と交わされる楽しいおしゃべりを興味深く聞きながら順番を待っていたところ、なんだか感情が堰を切ったように溢れ出してきてしまいました。
どうしよう困った困った困った。
(去年初日の大阪で涙ぐみました)
(高松では号泣しました)
(はずかしいのでちゃんと笑顔でお話ししたい)
えーい仕方ないやい!

「お伝えしたいことをちゃんと考えていたはずなんですが、なんだか高野さんを間近にしたら気持ちがうまく言葉に出来なくなってしまって……(涙ぐんで来たのを我慢しながら)去年の30周年から先に進んで、あたらしい高野さんの音楽の世界が開いていくのが見られてすごく感激しました、来られて良かったです」
しどろもどろのこちらにかけてくださったのは、誇らしげな様子での「嬉しいです」のお返事。
こんなに嬉しいことがほかにあるだろうか。

昨年の大阪では「高野さんの音楽がずっと大好きで、いつでもいちばん新しい『いま』の高野さんが鳴らしてくれる音楽が大好きです」という旨をお伝えしたのですが、改めて同じ気持ちを感じたのとともに、『いま』の高野さんがいままで見たことのなかったあたらしい音の世界を見せてくれたことにすごく感激したライブでした。
これからの高野さんの活動がますます楽しみです。





さてはて、「また来ます」と高野さんにお伝えして会場を後にしたわけですが……ここに恵比寿ガーデンホールのチケットがあるじゃろう?